主張
新結核豫防法に關する不安
pp.356
発行日 1951年6月15日
Published Date 1951/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200847
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こんど改正された新結核豫防法が劃期的な法律であることには誰しも異論がないと思う。實際これ位徹底して最新醫學の教える原理が織りこまれ,必要な措置が整然と用意された衞生法規は稀である。私はこれに對して非難的な批評を試みる氣持になれないのは,この事を十分知悉しているからである。しかしそこに不安感が全然無いわけではない。その不安は主として,この法律の條文が餘りにも立派に出來上りすぎているところから萌しているのかもしれない。つまり私は,この法律が果して,この規定通りにきちんきちんと實行されて行くことが可能なんだろうか,どうだろうかという實施面での懐疑にとらわれるのである。行政官の感覺によれば,法律の生れるのにも一つの潮時がある。ある事業が躍進するにはチヤンスというものがある。そうした時機を失すると,半ば永久的に日の目を見ないこともあるのだ。だから結核豫防の一大作業が,現實考慮の面に一沫の不安をとゞめながらも,ともかくも枠だけでも見事に仕上げられたということは,それ自身大に喜ぶべきではないかという考え方にも一理がある。しかし憲法第二十五條のようにあまりにもりつぱに出來上つているものに向つたときの空虚感が結核豫防法にもないとは言えないことを私は遣憾に思うのである。
第1に,本法の施行については保健所という機關及び保健所長という人間は,新らしく大きな責任や義務を課されている。
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