醫藥隨想
衞生教育と家庭醫
小島 三郞
pp.136-137
発行日 1951年2月15日
Published Date 1951/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200789
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一昨年頃新潟,山形,長野,靜岡,愛知,山口を始め,各地方に亘り,或は相當廣汎に,或は極めて局地的に,所謂傳染性下痢症と假に命名した,一種の消化器系のヴイルス性疾患が流行した事があり,私共は數回に及ぶその調査研究報告を,醫學雜誌に掲載した。疫學的に觀て,私の注意と興味を惹いたのは本病が農村漁村地帶に濃厚に多發し,大小の都市にはあまり流行の型では視られなかつた事である。私共の人體實驗の明かに確證したのは,本病が經口感染に因る,而も極微量のウイルスに因るものである事である。本ウィルスは患者の下痢便中に存在し,外界への出現ルートは全く糞便に供われてのみ行われる。續發患者は,此糞便中のウイルスを,それがどんな經路と機會と媒體をつかむとしても,ともかく飮食物と共に攝取したものに限る。このウィルスを經口的に浸入を許す機會と頻度と多少とは,國民の生活樣式に關係する。農山漁村に多發したのは,この種の田園的牧歌的生活者の方が非農家的生活者よりも遙かに,ウィルスの浸入を許すような飮食物攝取型式を採用している事を教へる。同じ樣な農村であつても,例えば村役場の所在地などで,商店,銀行支店,小役人,郵便局,精神勞働者などの比較的多く集まる部落では,罹患者が格段に少なかつた。さて一體どこがどの位に相違するか。明かに立誰し得る程の相違點がない。
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