論説
輸血による梅毒傳播問題
pp.187-188
発行日 1949年2月25日
Published Date 1949/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200420
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輸血は出血者及び重症者の起死囘生の術で,醫療に不可缺の法である。然しながら輸血により梅毒或はマラリヤ等の感染を起した不幸な事例は過去に於て内外に尠くないのである。米國に於ては今次世界戰爭中本問題に關する學術的研究の長足な進歩(1)を見,且つその成果は實際に應用され,民衆はその餘慶を鹽に享受して居るのである。
過般東大分院に於て輸血による梅毒感染事件があつて,これが爲め國を被告として訴訟事件が起つたが,本事件は本號所掲の緖方氏の報告(2)の如き機轉によつて發生したものである。憲法改正により今は廢止せられて居るが戰時下の爆傷者の輸血の多かるべき事態の衞生對策として昭和20年2月施行された輸血取締規則では給血者は6ヶ月毎に血液檢査を課されて居つた。然しながら梅毒は感染後6週間は血清反應陰性であるので1ヶ月毎に給血者の檢血を行つても尚感染當初の血清反應陰性期の給血者からの感染は完全には防止出來ないものである。輸血による梅毒感染の絶對的な豫防は米國に於て今次世界戰爭對策として早期から採用された血液金庫制Blood Bankによらなければならないものである。それは0℃に3日間保持すれば梅毒血液中のスピロヘータは死滅する(1)ので,血液金庫を設け採血後3日を経過した後に初めて血液を輸血に供するようにすれば梅毒感染を完全に防止出來るのである。今囘の事件の對策として東京都では初め輸血取締規則を制定し給血者に毎1ヶ月の檢血を課せんとした。
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