映画の時間
―イタリアの世界的巨匠エルマンノ・オルミ監督がある街の聖堂を舞台に描いた危機の時代に贈る,現代の黙示録―楽園からの旅人
桜山 豊夫
pp.781
発行日 2013年9月15日
Published Date 2013/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102848
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去る7月8日,ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇はアフリカからの不法移民を乗せた船が多く漂着するイタリア南部のランペドゥーサ島を訪問しました.この小さな島の近海で,漂流している移民を救おうとする島民の苦悩を描いた「海と大陸」を本誌4月号でご紹介しましたが,今月ご紹介する「楽園からの旅人」も,明瞭には描かれていないものの,おそらくはイタリア南部,アフリカと近接していると想像させる地域を舞台としています.
年老いた司祭が神に祈りを奉げているシーンから映画は始まります.教会が取り壊される様子で,聖堂の天井に飾られていたキリスト像も取り外されます.教会に集う信者も少ない,というかほとんどいない状況で,教会が閉じられれば,自身の身の振り方も考えなければならない司祭は机上のキリスト像にも祈ります.「陽気なドン・カミロ」(1951,フランス・イタリア)や「汚れなき悪戯」(1955,スペイン)では,キリスト像が祈りに応える場面が記憶に残りますが,この作品のキリスト像は,司祭の祈りに対して沈黙を守ります.
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