公衆衛生Books
―R・ウィタカー(著),小野善郎(監訳)―『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実
pp.996
発行日 2012年12月15日
Published Date 2012/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102622
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(前略)本書の著者であるロバート・ウィタカーの知的探求の出発点はきわめて明快である――画期的な精神科治療薬が普及したのに,精神疾患の転帰は薬物療法が導入される以前よりも決して良くなっていないどころか,むしろ悪化しているようにさえ思われるのは何故なのだろうか.薬物療法が有効であるとすれば,その疾病の転帰は良くならなければならないのは当然である.疾病の症状は軽減し,病期は短くならなければならないはずである.しかし,精神科医療の現場は,より長期的に薬物療法を必要とする人たちが増え,そもそも精神疾患を有する人々が急増し,まさに現代の「流行病」になっているのが現実である.(中略)
著者も明確に述べているように,本書は決して精神科薬物療法を否定するものではない.そうではなく,本書は,今日において「既成事実」となっている精神疾患に対する薬物療法と,その根拠となっている「仮説」の意義と限界を提示することによって,精神科医だけでなく,精神保健関係者,患者とその家族,そして広く社会全般の人々が,精神疾患とその治療をより良く理解するために必要な正しい情報の受け取り方,すなわちメディア・リテラシーに資するものと言えよう.精神科医療だけに限らず,患者と家族に最終的な治療の選択が委ねられることが一般的になっている今日の医療においては,医学情報を受け取るスキルはますます重要になるだろう.(後略)
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