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はじめに
平均寿命の伸長により,多くの人が長い高齢期を手にすることになった.若い頃にはできなかった趣味やボランティア活動を楽しむ人も多い.人生の諸々の体験がゆったりと統合されるとき,メンタルヘルス上も豊かな果実が得られるはずである.しかし他方で高齢期は,心身の機能低下,本人や家族の健康問題,身近な人の死,仕事や社会における役割の喪失など,メンタルヘルス上のリスクにさらされるときでもある.
この30年,高齢者のメンタルヘルスが公衆衛生上の重要な問題であると認識されるようになった.人口高齢化により介護問題が顕在化する中で,まず認知症がメンタルヘルス上の問題としてクローズアップされた.1970年代から80年代にかけて,多くの認知症の疫学調査が行われ,高い有病率とともに様々な「問題行動」が存在することが明らかになった.認知症高齢者の支援は,保健活動の実践的課題となっていった.
しかし他方で,認知症は長くタブーでもあり続けた.保健関係者は,認知症に罹患している可能性を住民に伝えることは“失礼なこと”と考え,口にすることを恐れた.住民にとって,認知症は特殊な問題であり自分や家族が罹患していることはあり得ないこと,あるいは恥と捉えられていた.しかし近年,認知症のスティグマは大きく改善した.認知症ケアの経験を積み重ねる中で,軽症の病態が多数を占めているという実態を,住民と保健関係者との両者が冷静に理解するようになり,弄便や暴言・暴力など,重症に偏っていた疾患イメージが修正された.
本稿では,認知症以後の高齢期のメンタルヘルスの現代的な課題として,うつ病および関連する疾患・問題を取り上げる.うつ病は,QOL(quarity of life)だけではなく,ADL(activities of daily living)を低下させる.地域高齢者のうつ病などについての理解が,高齢期のメンタルヘルス改善に繋がることを願っている.
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