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はじめに
高齢者の健康指標である高次生活機能の自立性の障害は,主要疾患の罹患状態とは独立して普遍的に訪れる“老化そのもの”によって規定される1).超高齢社会において高齢者の老化の規定要因の探索研究の意義はきわめて大きい.地域高齢者の長期縦断研究により明瞭な関係が証明されている老化の規定要因に,身体栄養状態がある.図1は,地域在宅の高齢女性の8年間の最大歩行速度の低下と,血清アルブミンの関係を示している2).老化の進行程度は身体筋力の予備力に敏感に反映される.血清アルブミンの高いグループほど,低下量が明らかに少ない.この関係の有意性は,年齢,ベースラインの最大歩行速度,および運動習慣の有無など,主要な交絡要因の影響を酌量しても消失することはない.さらに,老化による四肢骨格筋量の変化を縦断観察した研究3)は,血清アルブミンの低いグループで減少量が大きいことを示している.このように,たんぱく質栄養状態の低いことが,筋力と筋量の低下を促していることがわかる.特筆すべきはこれらの研究2,3)で認められた関係が,臨床医学的な正常域とされる3.8g/dl以上の水準で検出されることである.臨床医学的には正常域であっても,よりたんぱく質栄養状態の良好な高齢者ほど老化速度が遅いことは,深く銘記しなければならない知見である.ところで,血清アルブミンを炎症指標とする臨床的認識があるが,筆者らは,たんぱく質栄養を高める食生活改善の介入研究により,介入群における有意な増加を確認している4).したがって血清アルブミンは,たんぱく質栄養状態の適切な指標と考えられる.
血清アルブミンは加齢に伴い低下する.この現象には加齢に伴う栄養摂取量の低下も関与しているものの,老化による体構成組織に対する骨格筋(除脂肪組織)の占める割合の減少に基づく,たんぱく質ストレージ組織の喪失が深く関わっている.したがって老化とは,身体からたんぱく質が抜けていく普遍変化と捉えるべきである.高齢者に対するたんぱく質をはじめとする栄養摂取量の抑制は,老化を早め,虚弱化を加速させることになる.超高齢社会では,わが国が戦後に経験した食糧の需給事情による栄養失調とは全く異なる,老化による,たんぱく質栄養を主とした新しいタイプの栄養失調が健康問題となる.
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