沈思黙考
日本の未来予測
林 謙治
1
1国立保健医療科学院
pp.182
発行日 2012年3月15日
Published Date 2012/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102376
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少子高齢化がますます進み,社会保障制度の現状維持が困難となっている.税収が41兆であるのに医療費だけでも39兆に達している.思えば国民皆保険が実現できた昭和36(1961)年は東京オリンピックを迎える3年前であった.その12年後の昭和48(1973)年,田中内閣のときに老人医療費無料制度が導入され,「福祉元年」とも呼ばれたことを記憶されている方もおられると思う.当時,日本は経済成長に支えられて,世界に誇れる社会保障制度を築き上げた.
筆者はこの頃に公衆衛生の道に入り,研究の世界では「公害研究にあらずんば公衆衛生にあらず」という雰囲気があった.こうした時代背景のなかで,当時国立公衆衛生院の某先輩が高齢化の進行について論文を発表し,「やがて医療・年金等社会保障制度がきわめて困難な状況に陥るであろう」と予見した.それから20年も経たないうちに,国保の財政難を社会保険が支えるのと引き替えに,医療費の削減を目指して検診事業を充実化するという財界の暗黙の了解のもとに,老人保健法が成立した.財政問題がこの頃から顕在化していたと言える.公衆衛生院の先輩が論文発表した当時,右肩上がりの経済成長のさなかであり,社会保障制度の構築に細心の注意を払うべきとの論調は歓迎されるはずもなかった.
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