特別寄稿
被災地における感染症対策
浦部 大策
1
,
帖佐 徹
1
,
岩田 欧介
2
1聖マリア病院
2久留米大学小児科
pp.54-59
発行日 2012年1月15日
Published Date 2012/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102315
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われわれの日常を支えている医療というものは,その性質から大きく二種類の活動に分けてとらえることができる.診療と保健である.診療は疾病に罹患した患者を治療することを目的とした活動であり,保健は疾病に罹患する前の早期発見や予防を目的とした医療活動である.大規模災害では建物や施設,人の被災を通して医療活動にも影響が出ることが多く,ダメージに応じた応急的な対応が必要である.
災害による診療所や病院施設の破壊,医療マンパワーの被災,災害で受傷した救急患者の大量発生といった状況から,治療を求める人たちの混乱は目につきやすく,診療活動は現地に緊急支援の必要な医療として認識されやすい.しかし,保健へのダメージ,とりわけ上・下水道設備など衛生インフラ(infrastructureの略)設備が損傷されることによって,感染症への抵抗力が著しく低下することについては,その重要性が十分認識されていないように感じる.言うまでもなく上水施設は,感染症への対応を施した安全な水を給水する設備であるし,下水施設は汚水・汚物中の病原微生物を処理して外部への拡散を抑える設備である.したがってそれが破壊されるということは,地域社会が備え持つ,感染症に対する予防能力が著しく損なわれることを意味する.さらに被災地においては,被災と避難所での集団生活で受けるストレスにより住民は心身ともに疲弊するが,これは感染症流行の見地から言えば,ホストの抵抗力減弱を意味する.被災地ではこのように感染症が生活に入り込みやすい危険な状況が揃うわけであるから,感染症の大流行の阻止に,危機管理の認識を持って対応することが非常に重要になる.
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