特集 健康危機兆候のモニタリング
感染症・食中毒のdiffuse outbreakの早期探知―最近の事例を踏まえた課題と今後の展望
砂川 富正
1
1国立感染症研究所感染症情報センター
pp.542-547
発行日 2011年7月15日
Published Date 2011/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102160
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
本稿執筆中に衝撃的なニュースが入ってきた.平成23年4月下旬に富山県・福井県・神奈川県などの飲食チェーン店で「ユッケ」などを食した利用客に血便などの発症が相次ぎ,既に60人を上回る患者数となっており,うち多くの入院が報じられている1).一連の事例について,富山県の6歳男児が腸管出血性大腸菌O111に感染・死亡したとされ,福井県においても別の6歳男児が死亡しており,ユッケが原因と報道されている(5月3日現在).自治体などにより調査が進行中であろうが,異なる地域の複数の店舗で発生しているところを見ると,同時期に流通していた食品が汚染されていた可能性が高いと予想される.
飲食チェーン店における広域の食中毒の発生は,近年顕著になってきた食中毒の形態の一つであり,物流の迅速化・広域化に伴い,このような事例の発生が今後も続くことが予想される.国民に対して生肉を食さないなどの啓発が必要であり,また食品業界・外食産業も安全な食品を,安全な方法で提供することへ,一層努力を傾注してもらわねばならないが,早期の探知と対応についてもシステムの整備が必要である.
本稿においては,広域に発生する食中毒の事例,diffuse outbreak(広域散発食中毒事例)についてのわが国の現状および課題,取り組みについて述べる.なお,食中毒であっても当初は行政的に感染症としての対応が進む場合が多いことから,「感染症・食中毒のdiffuse outbreak」と称している.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.