視点
公衆衛生とリスク
西村 周三
1
1国立社会保障・人口問題研究所
pp.354-355
発行日 2011年5月15日
Published Date 2011/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102109
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公衆衛生分野においては「リスク」概念は決定的に重要である.疾病リスク,健康リスクという概念は言うまでもなく,環境リスク,電磁界リスクなどに至るまで,枚挙にいとまがない.リスクの問題は,リスクを客観的に評価してそれを数量的に示すことから始まって,そのリスクをどのようにとらえるかというリスク認識(recognition),さらにリスク認知(perception)からリスク態度(attitude)の問題までの広汎にわたる.簡単に言えば,客観的なリスクを測定するという課題から,それを示されたときに人々がどのように反応するか,までの課題である.おそらくこのような検討が広範囲になされて初めて,リスク分析が意味を持つように思われる.
しかしながらこれまでは,最初に述べた「リスクの客観的数量化」に研究がやや偏って,人々がリスクにどのように向き合うか,の分析が少ない.それにはそれなりの理由がある.後者の問題を分析するためのツールが,比較的新しく発展してきた「行動経済学」が確立するまで,あまりなかったからである.「行動経済学」というのは経済学の一分野のように見えるが,実は心理学と経済学の共同生産物である.と言うより正確には,心理学からの経済学批判から生まれたとも言える分野である.したがってどちらかと言うと,心理学者たちが確立した分野であると理解すべきであろう.
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