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思春期の性の問題を考えるときに,その時代の社会的背景は避けては通ることができません.わが国での思春期を対象とした性教育については次回お話ししますが,性教育一つをとってもその必要性が叫ばれた10年前には正確な情報を与えることについて,社会からの追い風もありました.しかし数年前からは「教えることが性行動を誘発する.なぜそこまで教えるのか」という気運が高まり,性教育は危地に立たされています.実際に子どもたちの性の問題に対応する場合には,こうした建前と現状,すなわち本音との間で違和感を覚えることもあります.
したがって性の問題を考えるときには,その社会的な背景や,社会的な合意のあり方についても,認識する必要があることになります.たとえば30歳の男女が性交渉をするとしたら,反社会的要素がない限り誰も不思議には感じないと思いますが,これが15歳の男女の性交渉であれば,現実にはそうした事態は少なくないにもかかわらず,違和感を覚える人が多いと思います.しかしわずか100年前のわが国では,15歳同士の性交渉はごく一般的なことでした.以前に思春期の子どもたちの性交渉がなぜ問題かということを,中学校3年生の子どもを持つ母親を対象として調査をしたことがあります.性交渉は認めがたいという結論は100%でしたが,その理由としては,経済的に自立できていない,身体的に負担がかかる,子どもが生まれても責任ある社会生活が送れないことなどでした.しかしこれらの理由は個々にはクリアーすることができますから,本当は個人の価値観だけで決めてしまうのではなく,社会として対応する基本的な合意が必要であり,それに基づいた対応が行われるべきであると思われます.そうでなければ,実際に問題を抱えてしまった子どもたちが非難されたり,困難に直面したりするという状況を変えることはできません.
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