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はじめに
最近30年間で,子どもの歯科保健事情は大きく変化してきた.昭和40年代には3歳を過ぎると90%を超えていたう蝕有病者率も,1歳6か月児歯科健康診査が実施された昭和52年頃から徐々に減少を示し,平成年度になると顕著な減少が見られるようになった.東京都内では3歳児のう蝕有病者率が20%以下を示す地域も多くなってきており,それに伴い重症う蝕を有する子どもも明らかに減少してきた.このような現状のなかでは,多数歯にわたる重症う蝕を有する子どもは,育児困難や虐待(ネグレクト)までが疑われる状況である.
一方,少子化のなかで子どもの歯・口に対する保護者の関心は高く,「歯の生え方」「歯ならび・噛み合わせ」「う蝕予防・歯磨き」などが関心事項となってきている.また,乳幼児期には子どもの「食べ方」に関する悩みも多く見られ,厚生労働省の平成17年度乳幼児栄養調査1)でも「食事で困っていること」を訴える保護者は以前の調査に比べて増加していた.1歳を超えた子どもの食べ方では,遊び食い(45.4%),偏食する(34.0%),むら食い(29.2%),食べるのに時間がかかる(24.5%),よく噛まない(20.3%)などの訴えが多く,困っていることはないと答えた保護者は13.1%と少数であった.
平成17年には食育基本法が制定され,当初は食の安全や地産地消など「何を食べるか」に主体が置かれていたが,食育が推進されるなかで「どう食べるか」が注目されてきて,歯科との関わりも強くなってきた.平成19年には歯科関連4団体(日本歯科医師会,日本歯科医学会,日本学校歯科医会,日本歯科衛生士会)から「食育推進宣言」が出され,「食べ方」を中心とした歯科からの食育支援の方向性が示された.
また,近年の研究から,以前は子どもの成長とともに自然に獲得されると考えられていた「食べる」機能や行動が,出生後に学習され獲得されるものであることがわかってきた.子どもの成長過程で学習・獲得される食べる機能・行動は,また子どもの生活環境との関連も高く,少子化や核家族化の進んできた最近の社会状況のなかでは,うまく獲得できなかったり,獲得されても日常生活でうまく発揮できない子どもも見られる.
本稿では,乳幼児期の歯・口の発育と食べる機能・行動の発達を見ていくとともに,歯科からの食育支援のポイントについても述べたい.
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