特集 産業歯科保健
産業歯科保健活動の実際—企業における歯科保健活動
加藤 元
1
1日本アイ・ビー・エム株式会社藤沢健康開発支援センター歯科
pp.385-388
発行日 1999年6月15日
Published Date 1999/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401902089
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「西暦2025年には診療室から切削器具が消え,歯科医師の大半はオーラルフィジシャン(口腔保健管理医)になるであろう.」これは1991年にWHOのBarmes DEが出した予測である1).実際に予防先進国であるフィンランドでは,現在歯科施設全体のうち約47.3%が予防を主業務としている.一方,日本の予防歯科施設はわずか0.2%ほどで,う蝕・歯周疾患の罹患率は依然高く,歯科先進国とは言いがたいのが現実である2).これは穴が開いたら詰める,痛くなったら神経を取る,歯がぐらぐらになったら抜歯して義歯を入れるといった旧来の対症療法的歯科治療がいまだ主流であることが原因であろう.修復・補綴出来高払い制度の下で評価される歯科医療が,ソフトウェアよりハードウェアに対価を支払う日本人の特性も手伝って,歯科医療を受ける側の意識をも予防抜きのものにしてしまった感がある.
従来企業内歯科の役割は,職域の就業者に対し,急性症状を抑え,またそれに続発する処置を施すことで,勤務時間内での外部医療機関受診に伴う労働生産性の低下を防ぐことにあった.たしかに医科と異なり,自然治癒力が生じない硬組織の実質欠損に対する処置は,多くの通院回数を要し,本人への時間的,経済的負担も大きい.しかしう蝕や歯周疾患が,歯垢(デンタルプラーク)中の細菌による多因子性の感染症であることから,その予防や治療には,幼児期における母子感染防止と口腔のデンタルプラーク・バイオフィルムを除去するための保健指導が必須である3).
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