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はじめに―制度疲労を起こしている「保看統合化カリキュラム」
保健師教育は,目下,変革の只中にある.変革の原因は,看護系大学で従来行われてきた「保健師看護師教育統合化カリキュラムによる保健師教育制度が,時代の流れと共に持ち堪えられなくなった」という,看護学教育の制度疲労である.国家資格である「保健師」の教育を,今まで,看護系大学では,「看護師の幅を広げるために必要」という理由で,全員必修(卒業要件)にしてきた.一方で,看護教育を大学化することは看護界の長年の願いであり,近年,それは「看護系大学の増加」という形で実現してきている.
筆者は,看護系大学の増加自体は良いことだと考えるし,看護師教育の幅を広げることにも勿論賛成である.しかし,「看護師教育の幅を広げるために,学士課程で保健師の免許教育を必須とすること」「保健師教育課程を大学の卒業要件とすること」は,弊害が大きすぎると考えている.その理由は,大学4年間の中に,国家資格である看護師教育と,同じく国家資格である保健師教育の両方を詰め込むことによって,看護師としても保健師としても中途半端にしか育たないからである.中途半端な教育は,学生にとっても,また,採用する側にとっても,大きな問題を引き起こす.さらに,免許に付託した国民の信頼を損なうという意味でも,やってはいけないことである.
筆者らは,保看統合化カリキュラムについて,看護系大学が取らなければならない「根拠」を求めて,文部科学省にも足を運び,問い合わせた.わかったことは,保看統合化カリキュラムには,根拠法令は何もないということであった.近年,現場からも,保健師になる気のない学生が,「卒業要件である」ために大量に実習に来ることについての批判が高まり,ついに「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(中山洋子座長)第一次報告」1)(平成21年8月18日)で,『保健師教育については,大学による選択制の導入を可能とする』『学士課程において保健師教育の選択制を導入することに伴い,大学専攻科あるいは大学院において教育を実施する等の方策を通じ,その充実について考慮されるべきである』とされるに至った.
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