連載 路上の人々・6
「生」
宮下 忠子
pp.537
発行日 2010年6月15日
Published Date 2010/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101833
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上野の公園は,修学旅行や体験学習の学生たちで賑わっていた.優しそうな男子学生が同級生の後から,路上生活者の人々に深々と頭を下げながら笑顔で通り過ぎていく.「時々,ああやって挨拶をしていく優しい子たちもいるよ.励ましてくれているのだね」.
学生を見送りながら,柔和な顔付きで道夫さんは言う.公園は,外国人も多くなり,世界の縮図のようになっている.その中の1人,道夫さんはもう6年位前から西郷さんの裏側で仲間5人と路上生活を続けている.生活費は,夕方から夜にかけて缶集めをして売って,何とか小銭を稼いできた.昼間は仲間の荷物番もしている.既に69歳になった.「もう,体中病気だらけなのだよ.なぜ福祉事務所に生活保護の相談に行かないのかって? もうこれだけ生きれば,後は死ぬのを待つだけだよ.いつかコロリと死ねれば本望さぁ.だって,そうだろう.人間は,死ぬために生きているのだよ」.
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