連載 路上の人々・7
人は誰のために生きるのか
宮下 忠子
pp.629
発行日 2010年7月15日
Published Date 2010/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101857
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室内に倒れていたTさんが,緊急入院で特別室に運ばれてきた時の驚きは,今も鮮明に思い出す.左右の耳は原形を失い,ケロイド状になって耳穴だけが残っている.顔全体がケロイド状になって顎の肉も溶け,引きつるように首に繋がっている.右手の親指はなく,火傷の痕だけが鱗のようにケロイド状になって引きつっている.緊急を要する病状は,栄養失調,高血圧,肝障害など,病気を一身に集めたような人だった.衣類は汚れきり,野宿生活の長さを物語っていた.崩れるようにベットに横になったTさんの口から,言葉が出た.
「5年前,千葉でボイラーの仕事をしていたとき,ボイラーが爆発し,吹き飛ばされて大火傷をした.この火傷のために,俺の人生は大きく狂い,絶望的なものに変えられた.この姿では故郷に帰れず,でも何とか自力で生きてきた.だがもう,力尽きたよ.俺の体はぼろぼろだ」
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