連載 路上の人々・5
雨に心濡れて
宮下 忠子
pp.443
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101812
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梅雨の時期に入った.昨夜は,激しく雨が降り続いた.今朝は,その雨もやんでいる.いつもの通勤路の水溜りを避けながら職場へと急いでいた.その途中,私は,はっと足を止めた.前方に頭を深く垂れてしゃがみ込んだ人がいる.誰なのかわからない.近づくと,その人は昨夜の激しい雨で,白い上着がびっしょりと濡れている.この姿勢でこの場所で雨に打たれ座り続けていたのだろうか.病気で動けなくなっているのか.
私は,思い切って声を掛けた.彼は,蒼白な顔を上げ,充血した真っ赤な目を向けた.しかし,何も語ることなく,またもや深くうなだれた.年の頃,30歳後半だろうか.
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