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日本の薬物法制と対策
日本において久しく薬物の乱用が社会問題になっている.一般的には「麻薬」と総称される大麻,覚せい剤,MDMA(エクスタシーとも呼ばれる),ヘロイン,コカインなどの違法薬物の乱用である.とりわけ覚せい剤乱用については,戦後初期の第1次乱用期から第3次乱用期を経験してきた.しかもこの問題は現在もなお引き続き深刻と言われている注1).薬物使用による薬物依存について聞かされてきた噂や情報,そして実際に薬物依存者を目の当たりにしたことで生じる社会崩壊に対する危機感が社会不安の基礎となって,薬物使用等を抑止するために,これらの行為を犯罪化してきた.
このような薬物規制は,「覚せい剤取締法」,「大麻取締法」,「毒物及び劇物取締法」,「麻薬及び向精神薬取締法」などで,薬物使用行為やその前段階の輸入,輸出,製造,譲渡,譲受や所持行為などに対して行われている.これらの薬物規制立法は「国民の健康」を保護法益としているが,ここでは,薬物の使用とその前段階行為を禁止することで,単に個人の使用による薬物依存症と自己の個人的法益の侵害から保護するためにパターナリスティックに国家的介入をする.しかもそれだけでなく,「国民の健康」という超個人的法益の保護を名目として,社会的保健衛生基盤,健全な節度ある社会生活遂行の基盤を保護し,そのことで薬物の氾濫とそれに伴う規範意識の弛緩,勤労意欲の低下などによる社会経済的基盤の崩壊を防ぐことを目的としている.香城1)は,覚せい剤乱用による保健衛生上の危害は,二重の構造を有しているとし,「第一に,覚せい剤乱用は,使用者自身の精神や肉体をむしばみ,ひいては公衆全体の精神と健康に重大な悪影響を及ぼす危険性をはらんでいる」,しかも,「第二に,覚せい剤の乱用は,急性中毒時又は慢性中毒時における刺激性,幻覚,妄想に起因する発作的な破壊行動をひきおこし,社会全体に甚大な被害をもたらす」と指摘する.個々人による薬物使用自体はその社会的影響において軽微であるが,同種の行為の蓄積,つまり社会的に蔓延することで,社会的秩序の崩壊という意味での実害の危険が現実的で具体的になるとされている.ここでは,リスクを胚胎した薬物使用行為とその社会的蓄積2)が,未知でしかもその規模や内容も不確かな実害を発生させると考えられている.
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