特集 日本の食を守れるか?
中国における食品安全管理体制
佐藤 元昭
1
1(株)アジア食品安全研究センター
pp.865-868
発行日 2008年11月15日
Published Date 2008/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101435
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2008年1月30日に発生した中国産冷凍餃子による食中毒事件は,食の信頼と安全性確保面に多くの波紋を広げた.残された餃子や袋からは,メタミドホスという毒性の強い有機リン系殺虫剤の成分が,作物残留のレベルを桁違いに超えた高濃度で検出された.この農薬は,高毒性であるためわが国では一度も登録されたことがなく,国内には存在し得ないものであった.この事件が,消費者に2002年の中国産冷凍ホウレンソウのクロルピリホス残留基準値違反事件を思い起こさせ,「中国産食品の農薬汚染事件」として同様に受け取られているようであるが,全く異質のものである.すなわち,冷凍餃子事件では,実際に中毒患者が発生し,わが国には存在し得ないメタミドホスが異常な高濃度で混入された,犯罪性の強いものであった.
一方,冷凍ホウレンソウの残留基準値違反事件のクロルピリホスは,わが国でも使用されている農薬で,当時の小松菜やキャベツの残留基準値は2ppmと1ppmであった.しかし,わが国ではホウレンソウにこの農薬の使用が登録されていなかったため,残留基準値は検出限界の0.01ppmと二桁低い値に設定されていた.このため,ホウレンソウに0.5ppmと基準値の50倍の濃度で残留していても,小松菜の基準値の1/4,キャベツの基準値の1/2にしか過ぎず,毒性とは全く無関係であった.しかし,多くのメディアが残留基準値違反の倍率のみを報道したため,消費者に対し,毒性があるかのような不安が誘導されたものであり,いわば『導かれた恐怖』であった.
本稿では,最近の中国の食品安全管理体制について調査したので,その一部を報告する.
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