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喫煙が予防しうる最大の疾病・早死の原因であることは多くの国内外の研究によってすでに確立している.2005年2月27日に発効したWHOたばこ規制枠組条約(FCTC)1)の締約国(2008年4月9日現在153国)の多くは,FCTCの条項に盛られた規定に沿って,たばこ規制の取り組みを進めつつある.わが国は2004年6月にFCTCを批准し,締約国のひとつになったにもかかわらず,残念ながらたばこ規制の取り組みは遅々として進んでいない(末尾の注参照).
喫煙と肺がんの関連は1950年のWynderの症例対照研究によって初めて明らかにされた.その後Dollらの英国医師を対象とするコホート研究などによって,喫煙が肺がんをはじめとするがん,心筋梗塞,脳卒中などの循環器疾患や慢性閉塞性肺疾患など多くの疾患の原因であることが明らかにされるとともに,欧米先進諸国でたばこ対策が取り組まれるようになった.そして,受動喫煙が肺がんの原因となることを世界で初めて明らかにした1981年の平山コホート研究によって,喫煙の害は単に喫煙者本人だけでなく,周囲の非喫煙者にも及ぶことが認識されるようになり,たばこ対策は質的に変化した.
わが国の平山コホート研究,そしてこれに続く厚生労働省大規模コホート研究や文部科学省コホート研究,NIPPON dataなどの疫学研究は,欧米の研究に比し質的にも量的にも劣るものではない.日本では,1987年に厚生省編集の喫煙と健康問題に関する報告書「喫煙と健康」が出版され,その後,1993年に第2版,2002年に新版「喫煙と健康」が出版されたが,これらの報告書において,喫煙が日本人の健康障害の重要な原因となっていることが確認されている.
しかし,わが国では喫煙と健康に関する疫学研究がたばこ規制の取り組みに繋がっていない.本稿では,わが国のたばこ対策を検証するとともに,たばこ対策を推進するために必要な政策研究や保健医療専門職の役割に関して検討する.
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