「公衆衛生」書評
「国際保健政策からみた中国―政策実施の現場から」
相田 潤
1
1東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野
pp.215
発行日 2008年3月15日
Published Date 2008/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101288
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経済発展の目覚ましい隣国,中国における保健医療の現状と,そこで活動を続けるWHO西太平洋地域事務局を中心とした保健機関の活動が,筆者の幅広い国際機関での活動経験を通して語られる.本書の良いところは,貴重な保健医療関連のデータや,臨場感あふれる国際機関の現場の描写だけではなく,公衆衛生を学ばせてくれるところにもあろう.
中国では,都市部と農村部の経済格差は拡大を続けている.都市で子どもの肥満や栄養過剰が見られる一方で,農村では慢性栄養不良と低体重が問題となる.格差の拡大は,農村から仕事を求めて都市へ移動する国内移民労働者を生み出す.この2億人にも上る流動人口は,農村で生まれたために「都市籍」を持たず,医療や教育を含むあらゆる社会保障を受けることができない.さらに,グローバル化による社会の変化が追い討ちをかけている.今や中国の死亡原因は心疾患・がんをはじめとした慢性疾患によるものが大部分を占めるという.貧困と結びつく結核,流動人口の移動とともに伝播するエイズ,都市部を中心に増加する生活習慣病と,こうした現状は公衆衛生の歴史を再現しているように映る.
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