連載 感染症実地疫学・19
アウトブレイク:海外④ タイにおけるボツリヌス症集団発生と日本の抗毒素供給支援
上野 久美
1
1国立感染症研究所感染症情報センター
pp.599-603
発行日 2007年7月15日
Published Date 2007/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101110
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2006年3月,タイ北部ラオスとの国境に位置するナン県において,史上最大規模の食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス食中毒)の集団発生が確認された.ボツリヌス症は,芽胞を有する嫌気性グラム陽性桿菌であるClostridium botulinum(ボツリヌス菌)が産生するタンパク毒素(ボツリヌス毒素)で起こる.適切に処理されなかった缶詰や加工食品等の中でボツリヌス菌が増殖し,産生された毒素を経口摂取することによって,コリン作動性シナプスにおけるアセチルコリンの遊離が阻害されることにより発症する神経麻痺疾患である.わが国では1984年に,14都道府県において36症例(うち11死亡例)の発生を見たカラシレンコンによる食中毒で知られる.
本事例に関して,タイ政府は国を挙げて調査・対応にあたるとともに,わが国を含む3か国にボツリヌス抗毒素の緊急供給支援を要請した.筆者は,実際に抗毒素搬送に携わった経験から,本事例の詳細とタイ政府における対応,わが国の抗毒素供給支援の様子に関して述べると共に,今後,海外における感染症集団発生時にわが国に求められる役割に関して考察する.
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