特別寄稿
医薬品と安全
村上 陽一郎
1
1国際基督教大学大学院
pp.285-288
発行日 2004年4月1日
Published Date 2004/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100360
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
日本の医療についての評価はしばしば見事に両面的になる.医療の質を示す指標として通常基本的に採用されている,平均寿命や新生児(乳児)死亡率などをとる限り,日本は他の先進圏諸国と比較しても,図抜けた数値を示している.しかも,国民所得に対する医療費の割合は,近年増加する一方ではあるが,それでもまだ先進圏では比較的低いと言える.つまり,この視点から見ると,日本の医療は,比較的低い投資額で,最良の結果を得ている,と言うことができる.もちろん改めるべき点は多々あるとしても(例えば,日本では一人の患者当たりの滞院日数が極端に長い),社会をマスとして見た統計的な視点に拠る限りは,日本の医療の質は高いと言わなければならない.
しかし,一旦視点を個々の患者のレヴェルに下げると,この評価はきれいに逆転する.例えば,患者の医療に対する「満足度」は,つねに,先進圏諸国の間ではかなり低い数値を示してきた.「三時間待って三分の診療」とは,もう誰も言わなくなってしまったが,では事態が解消されたのか,と言えば,特に大病院や大学病院では,依然として患者はそれを耐え忍んでいる.大規模医療機関に依存し過ぎるという弊が患者の側にあるにしても,その弊自体が,患者の側の医療に対する暗黙の評価をなしている,という点も見逃せない.そして繰り返される医療事故.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.