特集 予防接種
新たな感染症へのワクチン
渡辺 理恵
1
1国立感染症研究所ウイルス第3部第5室
pp.284-287
発行日 2006年4月1日
Published Date 2006/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100279
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「新興感染症」という言葉が聞かれるようになって久しい.1990年に発表されたWHOの定義によると「過去20年間に新たに同定された感染症」とされている.表1は新興感染症の中でも特にウイルスが原因となっている疾患について発生年,地域を示したものである.個々の疾患についての詳細は本筋から外れるので割愛するが,エボラ出血熱やラッサ熱など致死率の高い急性感染症,今や全世界で4,000万人を超す感染者が出ている後天性免疫不全症候群(AIDS:エイズ),2002年末から2003年にかけてアジアに突如出現し,世界に衝撃を与えた重症呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome: SARS)など,社会的に大きなインパクトを与える疾患が多い.また動物由来のウイルスが種の壁を越えてヒトへ感染し,ヒト社会で蔓延するパターンが多いのも1つの特徴である.
表1ではワクチンの開発状況についても記してあるが,今のところエボラ出血熱,ウエストナイル脳炎,SARSの3つについて第一段階の臨床試験が,エイズについては第二段階の臨床試験が行われている.ワクチンは個体の防御と病原体の封じ込めに大きな役割を果たすものの,その開発には通常莫大な費用と長い時間を必要とするため,未知の感染症が発生した場合,すぐにワクチンを供与することは難しい.しかし現代のワクチン開発は,過去の知識の蓄積と研究技術の進歩の結果,過去のワクチン開発とは比べものにならないほどに進化しており,開発の時間を大幅に短縮することが可能となっている.
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