特集 感染症の新たな動向
感染症への新たな対応
曽田 研二
1
,
北村 勝彦
1
1横浜市立大学医学部公衆衛生学
pp.398-403
発行日 1996年6月15日
Published Date 1996/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901497
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近年,小説「ホットゾーン」や,映画(小説)「アウトブレイク」,エイズ薬害訴訟などで,あらためて感染症への興味が高まっている.公衆衛生学的側面からみても予防接種法の改正,らい予防法の廃止など感染症を取り巻く話題が多い.20世紀に入ってフレミングらの抗生物質の発見はあたかも細菌感染症の撲滅につながるかにみえたし,抗結核剤の発見は結核の撲滅を可能にするかに見えた.一方で種痘に始まるワクチンの概念は免疫学的にウイルス感染症をはじめとする全感染症に強力な武器を人類が勝ち取ったかに思われた.こうした感染症に対する偉大な発見が続いたにもかかわらずいまだに人類は天然痘以外の感染症を克服できずにいる.病原体の立場に立って考えると,種の保存を図る目的で変異を繰り返し病原性,抗生物質への感受性を調節して生き延びている.また,経済の発展に伴う衛生環境の改善,国民皆保険制度による医療費の低負担は病初期の対応を可能にし,病原体の種類をも転換せしめてきた.このように科学技術の進歩や社会経済的変化による感染症の状況も,それに対する公衆衛生上の対応も変わってきている.本稿では,明治期以後のわが国の感染症対策を振り返りながら新たな対応への模索を試みたい.
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