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はじめに
メタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome:以下、MetS)は、糖尿病や動脈硬化性疾患などにつながり、個人の生活の質の低下や医療費などの社会保障費の圧迫に関連する。また超少子高齢社会を背景に、労働人口の減少も懸念される中、労働力の確保が課題とされ、働き盛りの健康の維持増進が重要視されている。こうした中、40代から増加が見られるMetSへの対策として、生活習慣の改善を目指した特定健康診査(以下、特定健診)、特定保健指導(以下、保健指導)が実施されており1)、一定の効果が報告されている2)。しかし生活習慣は長い時間をかけて形成されることから、その改善は必ずしも容易ではない。そこで理論に基づき、対象者の行動・心理面を捉えた支援が重要となる。本研究では、行動理論の一つであるトランスセオレティカルモデル(Transtheoretical Model:以下、TTM)が導入されている標準的な質問票に1,3)に注目し、MetSおよび食習慣・運動習慣の状況と生活習慣改善に対する行動変容ステージ(以下、変容ステージ)の関連について検討することとした。
保健指導で効果的な対人支援を展開するには、対象者理解に基づいた有用性の高い理論を活用した支援が求められる。中でもTTMは、慢性疾患の予防を視野に入れた生活習慣の改善のための行動変容を支援する上で有効とされている4)。支援にTTMを活用することで、対象者の生活習慣改善に対する行動と意識を変容ステージとして構造的に捉えることができる。そして対象者の心的特性を踏まえ、行動変容に有効な心理技法を支援に展開することが期待できる4,5)。
特定健診ではMetSに関する身体状況のアセスメントが行われ、その判定レベルに応じた保健指導につなげるとともに、MetSとの関連が確認されている食習慣や運動習慣へのアセスメントを、標準的な質問票により行うことができる。さらに食習慣や運動などの生活習慣改善の実践状況と意識について、「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つの変容ステージに対応する回答を得ることができる。つまり標準的な質問票の使用により、生理面へのアセスメントに加え、行動・心理面でのアセスメントが可能である。そして保健指導を行うにあたって、生活習慣や変容ステージを確認することにより、対象者の心情を酌んだ支援を行うことが推奨されている3)。
実際MetSの判定レベルが同じであっても、準備性は、無関心期から維持期までさまざまである6)。保健指導を行う際には生活習慣の改善が目標となることから、行動・心理面を酌んだ支援が必要であり、MetSに関する生理指標のみに基づいた支援では十分とは言えない。
MetSの状況を捉えた生理的なアセスメントに主軸を置いた保健指導から、対象者の行動・心理面のアセスメントにも軸を置いた保健指導につなげるためには、MetSの判定レベルやMetSに関連する食習慣・運動習慣の状況による変容ステージの特徴を把握することが必要である。そこでこれまでも成人若年期7)や大学教職員6)を対象にするなどの検討がされている。
しかしいまだ、行動・心理面へのアセスメントの活用は十分ではない。標準的な質問票で問われている食習慣・運動習慣の状況や生活習慣改善に対する変容ステージを問う質問項目は選択項目に含まれており、各医療保険者が問診票に取り入れるかは任意とされているが、多くの保険者が問診票に導入している3)。ところが特定健診後の情報提供(フィードバック)時における標準的な質問票の回答内容の活用状況を見ると、全22項目を活用しているのが45.5%、選択項目(服薬と喫煙以外)のみの活用が1.1%である8)。つまり食習慣・運動習慣の状況および行動変容ステージの項目を活用している医療保険者は、およそ半数程度に留まっている。
そこで本研究では、行動・心理面へのアセスメントの活用に資する情報の提供を目指し、S県職員を対象とし、MetSの判定レベルあるいは食習慣・運動習慣の変容ステージの分布を検討することとした。これらを明らかにすることにより、生活習慣改善に対する準備状況を視野に入れた保健指導の促進に資する資料のさらなる蓄積を図ることができる。つまりMetSの判定や食習慣・運動習慣の実践状況に基づいた支援を提供する際に、併せてその背景にある対象者の生活習慣の改善に対する関心や行動といった準備性との関連を視野に入れることで、行動・心理面へのアセスメントを活用したより深い対象者理解に踏み込んだ支援に寄与する資料の提供が期待できる。
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