連載 偶然、でくわす精神療法—「いつものケア」からこぼれる小さなセラピー・2
転移が起きねば始まらない。専門性・ステータスをカッコに入れる精神療法
橋本 和樹
1
1京都博愛会病院
pp.162-168
発行日 2025年3月15日
Published Date 2025/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610280020162
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小次郎さん、お兄ちゃんよね。
ある日の直子さんのカルテに、主治医とのこんなやりとりが記載されていた。
直子さん:「あ、これって診察だったんですね」
主治医:「そうですよ、診察じゃないと毎週は話さないですから」
直子さん:「そうですかぁ。OT行きたいです。行ってもいいですか?」
あまりにも正直なやりとりに私は思わず詰所で吹き出してしまった。主治医との毎週の対面を、長い間「診察である」と気づいていなかった直子さんは、統合失調症を患っている長期入院の女性である。ここだけ切り取れば、いつも同じようなやりとりを繰り返す医師への嫌味か何かとも思われそうだ。しかし、これはそういった類いのものではない。これはれっきとした臨床的現象である。そう、彼女にとってその医師は「主治医」ではなかったのだ。どういう意味だろう。

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