徹底分析シリーズ 麻酔科医として死に向き合う
「生」きる希望としての補助人工心臓と心臓移植—心臓移植,補助人工心臓を念頭においた日本の重症心不全管理
布田 伸一
1,2,3,4,5
Shinichi NUNODA
1,2,3,4,5
1東京女子医科大学 心臓血管外科学分野
2日本臓器移植ネットワーク
3日本心臓移植学会
4補助人工心臓治療関連学会協議会
5日本移植学会
pp.791-797
発行日 2025年8月1日
Published Date 2025/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134088360320080791
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
20世紀後半の自然科学の発展は,人々の寿命を延ばし,医療におけるquality of life(QOL)の重要性を浮かび上がらせてきた。心不全領域においても,20世紀終盤から急速に発達してきた薬物療法は患者の寿命を延ばし,薬物療法に抵抗する状態にまで陥った患者には補助人工心臓,そして心臓移植の治療がとられるようになった。このように医療の発展がもたらす「生」への恩恵は同時に,医療が「死」にどうかかわるべきかの考え方,つまり生命倫理の重要性をクローズアップさせてきている。そこには,多職種(医師,看護師,薬剤師,理学療法士,臨床心理士,管理栄養士,医療ソーシャルワーカー,保健師など)によるカンファレンスの存在と重要性,そのための各職種の責任が認知されてきたと思われる。
今回,「麻酔科医として死に向き合う」という非常に重いテーマが与えられた。標準的薬物治療を行ってもNYHA心機能分類 Ⅲ度より改善しない治療抵抗性のStage Dの患者に対する補助人工心臓と心臓移植治療について,2025年6月時点での筆者の考えを述べたい。ここで,本稿の内容は生命倫理に関する形而上学的なものであり,そこには専門家から一般人までさまざまな考え,思いがあると思われる。重要なことは,その多種多様な考えをまず認知することであり,多職種カンファレンスの存在と重要性の本質はそこにあると筆者は常日頃思っている。本稿でもそのスタンスで記述したい。

Copyright © 2025, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.