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亜酸化窒素はもうおしまい?
亜酸化窒素(笑気)は,最も古くから使われている全身麻酔薬の一つであり,鎮痛作用,鎮静作用を併せもつ。筆者が麻酔科医になった頃にはプロポフォールはなく,ほぼすべての手術は揮発性吸入麻酔薬で麻酔をしており,さらにほとんどの例で亜酸化窒素を併用していた。また,neuroleptic anesthesia(NLA)という亜酸化窒素,ドロレプタン,少量フェンタニルで管理する麻酔方法があり,揮発性吸入麻酔薬を避けるときに選択されていた。その頃は,筆者の働いていた施設ではそもそも空気の供給配管もなく,酸素と亜酸化窒素のブレンドで吸入酸素濃度を調整していたため,どの麻酔にも必ず亜酸化窒素を使っていたが,空気配管の普及によりその役割は終わった。また,強い鎮痛作用があることも利点であったが,レミフェンタニルの登場により,こちらの役割も終わった。追い打ちをかけるように亜酸化窒素は温室効果かつオゾン層破壊効果をもつ物質であり,環境負荷の観点からも使用を控えるようになっている。ほかにも亜酸化窒素は,ビタミンB12,葉酸の代謝阻害によるミエリン鞘の合成を障害するし,閉鎖腔への拡散も一部の疾患では問題になる。
こんな亜酸化窒素ではあるが,無味無臭であり緩徐導入に適していて,また血液/ガス分配係数が小さく(271ページ表1),薬物動態学的に麻酔導入を早める効果があるので,亜酸化窒素を使いこなすことで麻酔管理の幅が広がる。また,亜酸化窒素の鎮痛作用がオピオイドとは異なり,N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗なので術中のワンポイント鎮痛としての使い方もある(タニケットペインに対してなど)。導入だけなど時間を限って使うなら亜酸化窒素はまだまだ捨てたもんじゃない。

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