連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・218
読み聞かせをするやさしきゴリラよ
柳田 邦男
pp.350-351
発行日 2025年4月10日
Published Date 2025/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091713550350040350
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無条件に愛くるしいオランウータンやゴリラの表情を表紙にドーンと打ち出した,何とも愉快な雰囲気の同じような動物絵本が2冊ある。1冊は,オーストラリアで画家,漫画家,家具デザイナー,アニメーション監督など多彩な表現活動をしているブラッドリー・トレバー・グリーヴさんの写真絵本であり,もう1冊は,詩人・谷川俊太郎さんの寸言に,動物の生き生きとしたスケッチでは右に出る人のいないあべ弘士さんの絵で構成したど迫力の絵本だ。
1冊目の『The Blue Day Book』の表紙写真に打ち出されたオランウータンは,あぐらをかいているのだが,背中を丸めて首を肩より前に沈め,組んだ両腕の左手で顎を支えている。大きな口を貝のように閉じ,引っ込んだ両眼を閉じて八の字にしている。オランウータンがどんな状況にあるのかはわからないが,老師が沈思黙考しているような風情ではない。生きようとする意気を失い,絶望のどん底にいる姿だ。よくぞこんなオランウータンの姿と表情をカメラで捉えたものだと,撮影した写真家の“腕”に感服する。タイトルの日本語訳「誰でも落ち込む日がある。」にぴったりの写真だ。
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