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研究者代表の立場より
ピアサポートの意義と研究の出発点
手術や疾患経験のある患者・当事者同士が相互に支え合う「ピアサポート(peer support:PS)」は,病気への向き合い方や日常生活の工夫を共有することで,医療だけでは届きにくい力を発揮してきた.医師や看護師が提供する医療知識や治療だけでは補えない「生きる知恵」,「体験に基づく安心感」を仲間同士で分かち合うことができる点に特徴がある.海外では医療資源の不足を補う重要な仕組みとして制度的に位置づけられ,地域医療や慢性疾患ケアの基盤を支えてきた.一方,日本では制度的基盤が乏しく,個々の当事者団体やボランティア活動に依存してきた歴史があるため,活動の持続性や社会的評価が課題とされてきた.
こうした背景のもと,私たち研究チームは2021年(令和3年)から障害当事者と協働し,この仕組みを社会に実装する研究を開始した.当事者自身の声や経験を起点に据え,研究者や医療者と対等に議論しながら仕組みをかたちにすることを重視した.ちょうどその時期,世界はコロナ禍に直面し,対面での活動が大幅に制約されることとなった.従来のように病院や地域の集まりで自然に行われていたPSが急速に途絶し,孤立や情報格差が広がる危険が現実のものとなったのである.その中で私たちは,VRやWeb会議といった新しいコミュニケーション手段を用いた実証実験を重ねた.導入当初は技術習熟やアクセス環境の違いによる困難が次々と明らかになったが,同時に,デジタル基盤を活用することで,地理的・身体的な制約を超えて人がつながれる可能性も実感することができた.これらの経験は「ピアサポートのデジタル実装」という次の段階を見据える重要な転機となった.この転機を起点に,ピアサポートは医療の補完的な仕組みを超え,教育や地域社会へと広がり,やがて地域づくりそのものへと発展していった.

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