わたしの大切な作業・第81回
精妙な技こそ見た目はシンプルになる
甲野 善紀
pp.1
発行日 2025年1月15日
Published Date 2025/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091513540590010001
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私は今年(2024年)75歳という後期高齢者に入った武術研究者であるが、今年の5月中旬、大磯で講習会を行った際、柔道強豪校のT大学柔道部に籍を置き、特に捨身技では滅多に投げられたことがないという私より30キロは重そうな青年に「では、これから貴兄を私が捨身技で投げますから、投げられないように十分用心していてくださいね」と警告してから、私が昨年の12月に気付いた「浮きに浮きをかける」という術理を使って、捨身技を掛けると、この青年は私の身体の上を飛んでいった。その後、再度ほぼ同じ形で彼を捨身技で投げ、次にこの青年が得意だという「体落」を、彼が私に掛けようとした瞬間に返したので本当に驚かれた。
しかし、出会いというのは不思議なものである。この時、私自身もまさか5日後の5月23日に、今までの私の武術研究史の中でも滅多に無いほどの「階段の上り方」をキッカケにした「重雲(かさねぐも)」と名付けた術理に気付くという予感は露ほどもなかった。
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