Nomade
マラソンと短距離走—戦略と戦術の距離感
上田 茂雄
1
1交野病院信愛会脊椎脊髄センター
pp.3-4
発行日 2026年1月25日
Published Date 2026/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091444120390010003
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マラソンと短距離走.どちらも「走る」競技ではあるが,その本質はまるで異なる.マラソンには全体の配分や呼吸法といった長い道のりを見据えた戦略が欠かせず,短距離走ではスタートの反応やフォームの精度といった戦術が勝敗を決める.42.195kmを走破するランナーは,序盤で力を使い果たさぬよう自らをコントロールし,給水地点や高低差を計算に入れながらゴールを目指す.一方,100mを駆け抜けるスプリンターは,スターティングブロックを蹴る瞬間の角度,腕の振り,足の接地時間といった,わずか10秒に凝縮されたすべてに神経を注ぐ.
いくら何百時間もジョギングを繰り返しても,100mを9秒台で走れるようにはならない.目的に応じて練習を細かく分解し,必要な力を磨かなければ成果は得られない.これは外科医の仕事とも,どこかよく似ている.私たちは日々,戦略と戦術の間を行き来しながら,患者の治療という目標に向かって走り続けている.遊牧民(Nomade)が季節や環境に応じて移動するように,外科医もまた状況に応じて戦略的思考と戦術的実践を往還する存在なのかもしれない.
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