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はじめに
急性横断性脊髄炎(acute transverse myelitis:ATM)は,脊髄における炎症性病巣の位置に応じた横断性脊髄症状(対麻痺,四肢麻痺,脊髄のあるレベル以下の感覚障害・運動障害)が急性または亜急性に出現する中枢性疾患である.発症頻度は1.3〜8.0人/100万人とされ.どの年齢でも発症するが,10代と30代に発症率のピークがあり,男女差はない.カナダと英国における統計では,16歳未満の小児におけるATMの発生率は2人/100万人/年と推定されている1).
さまざまな原因で発症するが,小児では免疫介在性の機序が60%を占め,感染症やワクチン接種を契機に自己免疫応答が惹起されて脊髄に炎症をきたすことにより発症し,後天性脱髄症候群(acquired demyelinating syndromes:ADS)と呼ばれる.ADSには,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS),視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD),急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated enchephalomyelitis:ADEM)などの表現型がある.成人と比して,小児では特にADEMの割合が多い.
そのほかには,マイコプラズマ,エンテロウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV),単純ヘルペスウイルス(HSV),サイトメガロウイルス,Epstein-Barr(EB)ウイルス(EBV)など感染症の原因となる病原微生物の脊髄への直接侵襲でも発症するため,感染症の検索は必須である.さらに,膠原病(全身性エリテマトーデス,Sjögrenシェーグレン症候群,抗リン脂質抗体症候群など)や,サルコイドーシスに伴った発症もある.原因が特定できない場合を特発性ATMと呼ぶ.
2002年,Transverse Myelitis Consortium Working Group(TMCWG)はATMの診断基準を提唱した11).この基準は非圧迫性急性脊髄炎の診断を統一し,特発性ATMの自然歴や研究に大きく貢献した.しかし,2000〜2020年代にかけて,抗aquaporin 4(AQP4)抗体や抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体の発見により,従来「特発性」とされていた多くの症例がNMOSDや抗MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease:MOGAD)に再分類され,さらに急性弛緩性脊髄炎(acute flaccid myelitis:AFM)など小児特有の病態も独立疾患として認識されるようになった.現在,臨床診療においてはNMOSD国際診断基準8)やMOGAD診断基準案2)が優先され,TMCWG基準単独での使用は減少している.
このように,小児を含めた脊髄炎に関しては,疾患概念そのものが大きく変遷してきている.この領域の疾患概念や治療に関しては,常に最新の情報を得て診療にあたる必要がある.

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