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2024年4月に医療界での働き方改革の新制度が施行され,それ以降,医師の長時間労働や労務管理の是正,タスクシフト/シェアへの取り組みなど,多くの医療機関がその対応に追われています.この改革の目的は,医師の健康保持や医療の安全性向上,ひいては持続可能な医療提供体制の確立にありますが,その中で大きな課題の1つが,外科系診療科における長時間手術とされています.医療技術の高度化・複雑化に伴い,これまで治療が困難とされてきた疾患に対する手術が可能になった一方で,手術時間は延びる傾向にあり,中には定時勤務時間を超えるような長時間手術も珍しくはありません.脊椎・脊髄外科領域の手術は,心臓血管外科,肝胆膵外科,脳神経外科などと同様に長時間に及ぶことがあり,従来の慣習を見直さざるを得ない状況となっていると考えられます.
私自身は1995年から金沢大学整形外科に所属し,専門医を取得した2002年頃から,本格的に脊椎・脊髄疾患の治療や研究に関わるようになりました.その頃金沢大学脊椎グループでは,私の恩師である富田勝郎先生,川原範夫先生を中心に,脊椎腫瘍や胸椎後縦靭帯骨化症に対する治療や研究を精力的に行っていました.脊椎腫瘍に対する腫瘍脊椎骨全摘術(total en bloc spondylectomy:TES)は当科で開発された術式で,その当時の平均手術時間は8〜10時間程度を要し,術後も通常の変性脊椎疾患と比較して厳密に術後管理を行う必要がありました.また,胸椎後縦靭帯骨化症に対する手術治療についても,当科では後方除圧固定術後に前方除圧固定術を行う脊髄全周除圧術(circumspinal decompression)を行っており,本術式は一期的に行う場合は順調に終わったとしても日をまたぐことが珍しくない手術でした.脊椎グループのチーフであった川原先生は,上記すべての症例に責任をもって,手術を執刀開始から閉創直前まで入っておられ,そのご負担の大きさは想像に難くありません.1990年頃に栄養ドリンクで大変な人気を博したCM「24時間戦えますか」をまさに体現しておられたお一人ではないかと思います.私を含めた当時の部下一同は上司の先生方への尊敬の念を抱きつつ,少しでもそのご負担を軽減できるように,若手脊椎外科医として全力で治療に取り組んでいたことを思い出します.
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