Japanese
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特集 味と匂いの脳科学
Ⅲ.末梢臓器における化学受容と脳機能の調節
体内環境による嗅覚調節
State-dependent modulation of olfaction
堀尾 奈央
1
Horio Nao
1
1Department of Cell Biology, Harvard Medical School
1Department of Cell Biology, Harvard Medical School
キーワード:
嗅覚
,
匂い
,
体内環境
,
マウス
,
食欲
Keyword:
嗅覚
,
匂い
,
体内環境
,
マウス
,
食欲
pp.375-379
発行日 2025年8月15日
Published Date 2025/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.037095310760040375
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生き物は,必要なときに必要なものを求めるという生存戦略を用いて生き延びている。嗅覚においても,生き物の体内環境に応じて,その応答を変え,適切な行動をとっている。例えば,空腹時には食べ物の匂いへの嗜好性を高めることにより,食べ物を求めやすくし,餓死を防いでいる。ここでは,このように体内環境が嗅覚応答を変えている例を幾つか示し,生き物の生存戦略について考えたい。
「空腹時,食べ物の匂いに強く魅力を感じ,食べ終わった後は同じ匂いに対してそれほど魅力を感じなくなる」という経験を誰でも一度はしたことがあるのではないだろうか。空腹時は食べ物を食べなくては餓死してしまうため,その匂いへの嗜好性を増強させて魅力的に感じさせるという体のメカニズムは,生存戦略のための理にかなっている。それでは,空腹時と満腹時,同じ“食べ物の匂い”に対して違う行動を起こすのはなぜだろうか。近年,筆者はこの行動の脳内メカニズムを発見した1)。空腹時の食べ物の匂いへの嗜好行動のみでなく,生き物はその体内環境に応じて適切に匂いへの応答を変え,健康・安全に生活し,種の絶滅を防いでいる。ここでは,そのような例を幾つか紹介したい。

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