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解説
—第6回生体の科学賞 受賞記念論文—嗅覚研究から何がわかり何が見えてきたのか
How is the self cognized in our consciousness?
坂野 仁
1,2
Sakano Hitoshi
1,2
1福井大学学術研究院高次脳機能領域
2東京大学
キーワード:
嗅覚情報処理
,
嗅覚神経回路
,
情動・行動の出力判断
,
意識形成と自己認識
Keyword:
嗅覚情報処理
,
嗅覚神経回路
,
情動・行動の出力判断
,
意識形成と自己認識
pp.380-389
発行日 2025年8月15日
Published Date 2025/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.037095310760040380
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高等動物における嗅覚は,求餌や求愛など個体や種の生存と維持に深く関わる重要な感覚受容システムである。匂いの種類は無限と言われ,それを1,000種類程度の受容体で識別しているからくりは,匂い情報の画像展開にある1)。匂い分子はマウスの場合,鼻腔に約300万個存在する嗅細胞が発現する嗅覚受容体2)によって検出されるが,個々の嗅細胞は約1,000種類ある受容体のうち1種類のみを発現し,更に同じ種類の受容体を発現する嗅細胞の軸索は嗅球表面の特定の位置に糸球体構造をつくって投射する3)。1種類の匂い分子は複数種類の嗅覚受容体と異なる親和性で結合するため,匂い分子の結合情報は発火の強弱も含め糸球体の組み合わせパターンとして画像展開される。こうして多様な匂いが限られた種類の受容体分子で識別されているわけであるが,筆者らは嗅覚神経地図形成の基本原理を解明し1),入力した匂い情報がどのように情動行動の出力判断に結びつくのかを解析した4)。
これら一連の研究は,匂い情報の受容から情動行動の出力判断に至るプロセスを神経回路レベルで明らかにし,高等動物における“遺伝子-神経回路-情動行動”のリンクに一応の道筋をつけた。本稿では筆者らの嗅覚研究を振り返り,その成果を基に一体何が見えてきたのかを考察し,感覚入力によってわれわれの意識がどのように形成され,そのなかに自己の認識がどう確立するのかについても考えてみたい。

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