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1.当該疾患の発生動向
ポリオ(急性灰白髄炎)は腸管ウイルス(enterovirus)の一つであるポリオウイルス(血清型により1型、2型、3型)による感染によって、四肢に非対称性の弛緩性麻痺が引き起こされる感染症である。小児での発生が多かったので「小児麻痺」とも呼ばれるが、免疫がなければ大人でも発症する。感染経路は典型的な糞口感染であり、直接的な汚染便だけではなく、ウイルスで汚染した水(便所・下水・河川等)による感染もあり得る。感染者の90〜95%は無症状の「不顕性感染」で、約5%が感染後約5日前後の潜伏期の後、微熱、不快感、頭痛、咽頭痛等を示す「不全型」となる1)が、腸管内で増殖したウイルスが血行性あるいは神経軸索を介し脊髄にまで到達して増殖すると、脊髄前角運動神経細胞を障害し、障害された神経細胞の支配する筋肉の麻痺を来す「麻痺型」となる。多くは四肢に左右非対称の弛緩性麻痺を生じ、後遺症として運動障害を残す。延髄の呼吸中枢の障害は呼吸麻痺を来し、死に結び付く。
ポリオは、1960年ごろまでは国内でも多くみられたが、生ポリオワクチン(oral polio vaccine: OPV)の緊急投与とそれに続く定期接種により患者数が激減し、1980年の患者を最後に国内では野生株ポリオウイルス(wild polio virus: WPV)によるポリオ患者の発生はない1)。海外においても、世界保健機関(World Health Organization: WHO)や世界各国の取り組みにより、自然界にあるポリオウイルス(WPV)2型、3型は世界中から駆逐され、根絶まであと一歩という状況まで来ているが、アフガニスタン・パキスタンにおいてWPV1型によるポリオの流行が残されている(図1左)2)。OPVは接種のしやすさ(経口接種)、流行を制御する効果の高さ、価格の安さから世界中で広く用いられ、ポリオ根絶に多大な貢献をしているが、大きな欠点として、弱毒生ワクチンによる極めてまれ(100万接種1例)ながら生ずる麻痺(ワクチン関連麻痺:Vaccine Associated Paralytic Poliomyelitis: VAPP)、そしてOPV接種者自身あるいは地域集団でOPVウイルス株が長期間増殖・伝播することにより遺伝子変異を蓄積したOPV由来変異株による麻痺例の出現があり、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus: cVDPV)と呼ばれている。ことに2型cVDPVは、他の型と比べて出現頻度が高くポリオ流行に関与するリスクが高い。
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