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懐かしい.本書を初めて手に取ったとき,『シークレットシリーズ』のことを思い出した.感染症の話ではなくなるが,『シークレットシリーズ』は私が膠原病の後期研修3年目で国立国際医療研究センターに入職した初日に購入した記憶がある.さっきAmazonで検索したら2005年5月6日に購入しており,本当に初日だった(当時は5月が入退職の切れ目だった).科内の輪読会で読んでいたのだが,本書と似たリズムの構成で,たどたどしく英語で読んでいた頃が懐かしい.今(本書)のように夥しい数の引用文献でもって各クエスチョンに対して洗練されたミニレビューで回答するといったような様相ではなかったと記憶している.むしろ各著者のかなり個人的な意見やクセ,粗さみたいなのがあって,そういうところも皆で拾って吸収していた.それも当然で,膠原病診療に限らず臨床は「曖昧ワールド」であり,文献レビューなどだけでは太刀打ちできないしそれはどんなたくさんの引用文献を備えたとしても同じである.臨床問題に立ち向かうには,文献なんぞその総合力の一部に過ぎず,知恵や経験なども加味して,泥臭く,日々くたびれながらやるものだ.今回,本書を読んで感じたのは,時代の変化である.今は今でこうしたある種のなよっとした,すなわちたくさんの文献を論拠に謙虚に述べる草食系男子のようなタッチの内容が好まれるのだろうと思った.が,本書のp. 5のQ&Aの前半部分は大変興味深かった.コンサルタントの学習法について記述されてあるのだが,この時代にあって大変やり方が泥臭いのである.検査室によく通い,各専門医と直接会い,技師や薬剤師とコンタクトをとり,院内の“巨匠”とコーヒーを飲んだりして同僚も含めて相談できる場を作っておけ,と.このように,昔から言われていたようなことが今も堂々と記述され,こうして見事な和訳で出版されている.私も若手から古臭いと言われることが増えつつあるような齢にはなったが,少し安心した.泥臭いのではなく,authenticなのだと思い直した.さて訳者である渋江医師は,なんというかようやく表の世界に出てきたように思う.こう言うと本人は本意ではないかもしれないが,これは全く大袈裟でなく彼は私の想定する名うての内科医のなかの上位10人以内に入る,とんでもなく臨床のできる内科医である.しかしおそらく私と違う点がある…というか,私とは内科医である点で共通だが,お互いに自分にないものを相手が持っており,相手が持っていないものを自分が持っている,というような関係性だと勝手に推察している.何かすごいことを今言ったようだが,渋江先生と私はただのメシ友達であったりする.COIを気にする諸氏は参考にして欲しい.この本は,國松の書籍はどうも苦手で頭に入らない,肌に合わない人ほどおすすめである.「“今風の”感染症シークレット」は,私にとっては懐かしさも感じつつ,こうしてこなれた日本語となって穏やかに刊行された.

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