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はじめに
わが国がめざす未来社会のあり方として,2016年1月第5期科学技術基本計画として「Society5.0」が提唱された。これは,サイバー空間とフィジカル空間を融合させ,より豊かな社会を創造することであり,少子高齢社会における大きな課題となる人材不足に対し,DX(Digital Transformation)を進展させ,より豊かな生活に発展させる取り組みである。医療分野においてもDXは進展している。医療ロボット(手術支援ロボット,リハビリテーション用ロボット,搬送用ロボットなど)の導入,遠隔医療の実施,情報のデジタル化による地域ネットワークシステムの構築,生成AIの活用による業務フローの見直しなど,DXの導入が積極的に行われている。
看護の現場では,社会の変化に追随しながら,働き方改革による業務フローの見直し,多様な働き方の模索,タスクシフト/シェアの効果的な導入,将来を担う人材の確保など,看護に関わる労働環境や人材の確保,教育など,古くて新しい課題を突きつけられている。そして,これらの課題を解決するために,医療DXを用いた新たな看護管理のあり方を模索している。医療は,“人”を介して,“その人”の状況に合わせた必要な医療を提供する。特に看護は,疾病と生活の視点から対象者の状態を総合的に判断して必要な援助を行うなど臨機応変に対応することが求められ,複雑で個別的な判断と,“人”の手による介入が必要である。医療DXの進展により効率化や利便性など一定の効果は期待できるが,看護は最終的に“人”の介入が必要とされる。医療DXに求められるものは,質の高いサービス提供を実現するために,デジタル化で整理されたものを活用し,対象者に最も適したサービスを,“人”が実施できるフローを創り上げていくことだと考える。
今後,医療DXのさらなる進展には,生成AIの活用とネットワークシステムの充実は欠かせない。そのためには,対象者および医療の実態を示す共通概念をもったデータが必要である。看護の実態を表す概念については長い歴史の中で検討されてきているが,新たな情報社会が到来している今日,改めて看護の実態を社会にデータとして提示できるひとつのツールとして,看護診断の有用性が高まっている。
本稿では,これからの看護を創造するための看護DXにおいて,日本版看護診断の果たす役割について看護管理者の立場から述べる。

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