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序論
日本における医療デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)は,政府が主導している「医療DX令和ビジョン2030」に基づき,さらなる変革期を迎えている。具体的には,電子カルテ(Electronic Health Record:EHR)の標準化や診療データの共有,人工知能(Artificial Intelligence:AI)による診療支援やビッグデータ解析の導入が進み,診療の効率化と医療の質の向上を後押ししている。さらに,戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program:SIP)第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」においても,国産の大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)を活用した医療応用が積極的に推進されている。
一方で,日本の看護師に課せられた法的役割は,保健師助産師看護師法(昭和23年制定,通称「保助看法」)に示されるように「診療の補助」と「療養上の世話」に大別される。特に「療養上の世話」においては,患者を生活者として理解し,その人らしさを尊重しながら,看護学としての「看護概念(看護診断)」を判断し援助することが求められる(図)。ここでいう看護診断とは,臨床における看護師の思考を言語化し,教育や臨床の場で継承し,さらに社会や情報システムに接続するための枠組みである〔Herdman et al.(eds.), 2024〕。したがって,看護や医療の現場で生成・蓄積されるさまざまな種類の情報やAIによる解析は看護師の判断や患者への共感を置き換えるものではなく,思考(看護過程:Nursing Process)を支える基盤として補助的に活用されるべきである。

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