日本内視鏡外科学会雑誌 24巻5号 (2019年9月)

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◆要旨:患者は88歳,女性.主訴は右下腹部痛.腹部造影CTで虫垂根部の囊胞性腫瘤が上行結腸内へ陥入し腸重積をきたしていた.虫垂粘液囊胞による腸重積の診断で下部消化管内視鏡を施行した.送気により腸重積は解除され,盲腸に粘膜下腫瘤様所見を認めた.虫垂粘液囊胞腺癌の可能性を念頭に,手術は破裂や播種に留意し,完全腹腔鏡下回盲部切除術,体腔内吻合で施行した.体腔内吻合で行うことで剝離を最小限に留め,腸管挙上は行わないことで破裂のリスクを少なくした.また腹腔内で検体を切除できるため切除検体を回収袋に入れ摘出することで播種予防にも配慮した.術後8日目で退院した.mucinous adenocarcinoma,pT3, pN0, StageⅡの診断であった.17か月で無再発生存中である.

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◆要旨:患者は76歳,女性.8年前より食道裂孔ヘルニアを指摘され他院で手術を勧められていた.今回,嘔吐が出現したため当科を紹介され受診した.CTおよび上下部消化管透視検査で,縦隔内に全胃および横行結腸が脱出していることが確認された.胃は軸捻転を伴い,upside down stomachを呈する食道裂孔ヘルニアと診断し,腹腔鏡下手術を施行した.縦隔内に脱出した臓器を還納し,食道裂孔部を縫縮した後,composite meshで補強し,Toupet噴門形成術を追加した.術後再発なく経過しており,本疾患に対するメッシュを用いた腹腔鏡下手術は有用であると考えられた.

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◆要旨:患者は84歳,女性.悪心・嘔吐に対し近医にて対症療法を受けていたが改善がなく,当院の消化器内科を紹介され受診した.精査の結果,小腸型のChilaiditi症候群に伴う腸閉塞と診断され,イレウス管留置により保存加療を施行した.腹部症状は改善したものの腸閉塞の解除には至らず,手術加療を目的に当科を紹介され,第7病日に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した.腸管虚血は認めず,腸管切除は不要であった.術後経過は良好で術後6日目に退院した.小腸型のChilaiditi症候群は稀であり,絞扼性腸閉塞をきたすこともあるとされているが,術前診断し減圧処置を先行させることにより腹腔鏡下にて治療しえた1例を経験したので報告する.

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◆要旨:胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘Roux-en-Y法再建術時,非吸収糸で間膜間隙を閉鎖したにもかかわらず,術後内ヘルニアを合併した症例を経験した.患者は71歳,男性.2か月前に腹腔鏡下胃全摘Roux-en-Y法再建を施行した.腹痛の精査で横行結腸の内ヘルニアを認め緊急手術を施行した.ヘルニア門は挙上空腸の背側,横行結腸頭側に位置しており,腹腔鏡下に嵌入腸管を整復しヘルニア門を縫合閉鎖した.近年,好発部位に対する非吸収糸での間隙閉鎖により胃癌術後の内ヘルニアは低減しているが,それ以外の部位での発症は稀に起こりうる.術後の腹痛を認めた場合は,間膜間隙閉鎖の有無にかかわらず内ヘルニアを疑う必要がある.

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◆要旨:患者は65歳,男性.嚥下障害を主訴に当院を受診し,精査の結果,横隔膜上食道憩室と診断された.保存的治療で改善が得られず,手術目的で当科に紹介となった.胸部単純CTで胸部下部食道の左壁に5×4cm大の憩室を認めた.上部消化管内視鏡で憩室の粘膜に炎症性変化を認めたが,胃食道逆流を疑うような食道粘膜傷害を認めなかった.また食道内圧検査にて下部食道括約筋圧の異常を認めなかった.胸腔鏡下憩室切除術を施行し,術後経過は良好であった.横隔膜上食道憩室に対する術式については一定の見解が得られていないが,自験例のような症例は胸腔鏡下憩室切除術の良い適応である可能性が示唆されたため,文献的考察を含めて報告する.

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◆要旨:患者は50歳,女性.201X年1月当院内科で高血圧の精査を目的に施行した腹部造影CT検査で一部造影効果を伴う8cm大の後腹膜腫瘤を指摘され当科紹介となった.後腹膜血腫が疑われたが出血変性を伴う非機能性後腹膜腫瘍も否定できなかった.本腫瘤は下大静脈を腹側より圧排して下肢うっ血をきたしている可能性があることから腹腔鏡下後腹膜腫瘍摘出術を施行した.気腹によりBMI 30.54kg/m2であっても十分に視野を確保でき,小腸間膜根より後腹膜に到達し,腫瘍を慎重に剝離して摘出しえた.病理診断は線維増生により被包化された後腹膜血腫で,悪性所見はみられなかった.腹腔鏡による拡大視効果や水平方向からの視野により巨大腫瘍であっても摘出が可能であると思われた.

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◆要旨:今回,腹腔鏡下下行結腸癌根治手術後に虚血性腸炎を発症した1例を報告する.患者は65歳,男性.手術施行後半年で虚血性腸炎を発症して入院した.吻合部により炎症範囲が明確に境界された肛門側結腸および直腸に病変を認めた.保存的治療が奏効せず病状は増悪し,腹会陰式直腸切断術を施行した.虚血性腸炎は心血管系疾患,糖尿病,高血圧や便秘など便通異常を有する高齢者に頻度の高い疾患で,血管炎以外の末梢循環系の異常により引き起こされるとされているが,詳細な病因は未だ明らかにされていない.本症が大腸癌術後晩期に,吻合部肛門側に発症した文献報告は比較的稀であり,術後静脈環流障害が病状に影響した可能性を考察した.

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◆要旨:患者は71歳,男性,定期的に行われていたスクリーニングのCT検査で上行結腸壁に腫瘍を認めた.内視鏡では粘膜下腫瘍様の所見であったが,超音波内視鏡では結腸壁外の病変と考えられた.PET検査で腫瘍に集積を認めたため,腹腔鏡下に手術を行った.手術所見で,腫瘍は後腹膜ではなく結腸内のものと考えられ,回盲部切除を行った.組織学的に腫瘍は脱分化型脂肪肉腫と診断された.結腸原発の脂肪肉腫は非常に稀であり,これを腹腔鏡下に摘出した報告は未だされていないため,報告する.

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◆要旨:患者は79歳の女性で,2010年6月に悪性リンパ腫の治療歴があった.その際に施行した腹部CTで直腸右側に腫瘍性病変を指摘されていた.GISTや子宮筋腫が疑われていたが,悪性リンパ腫の治療が優先されたため,無治療で経過観察されていた.2016年の腹部CTで同病変は増大し内部に含気を有していた.下部消化管内視鏡では,直腸RS付近に腫瘍との交通が疑われる開口部を認め,同部より排膿を認めた.GISTも否定できず腹腔鏡補助下に切除を行った.病理所見では紡錘形細胞が錯走して増生し,免疫染色結果はαSMA(+),desmin(+),S-100(-),c-kit(-),CD34(-)であり,直腸平滑筋腫と診断した.GISTの概念が確立して以降,消化管の平滑筋腫の報告は稀となっている.今回,悪性リンパ腫治療後の経過観察中に壁外性発育,直腸穿通をきたした直腸平滑筋腫を腹腔鏡補助下に切除しえたので文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:患者は43歳の女性で不眠・抑うつの既往があった.血まみれの状態で倒れているところを発見され当院に救急搬送された.包丁での自傷による多発刺創で,CTで頸部皮下気腫・上縦郭血腫,左血気胸,腹腔内血腫を認め,左胸腔には血管外漏出像を伴っており,緊急手術を行った.多量の血腫,縦隔と肺舌区の損傷,左内胸動脈からの拍動性の出血を認め,止血操作を行った後に舌区の損傷部をステイプラーで切除した.肝臓に多発刺創を認め一部は貫通していたが,いずれも止血しており胆汁漏も認めなかった.術後経過は良好で術後4日目に精神科に転科となった.胸腔鏡・腹腔鏡による観察および治療は詳細な観察ができ低侵襲であり,有用であると考えられた.

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◆要旨:卵管間質部妊娠の腹腔鏡下手術においては大出血のリスクがあり,出血軽減のための工夫が必要である.筆者らは今回,子宮筋腫核出術を開腹で行う際に用いられる,ネラトンカテーテルによる子宮頸部絞扼法を用いて駆血し手術を完遂した.ネラトンカテーテルはHem-o-lok®を用いて容易に固定でき,術中出血はきわめて少量で術野も良好に保たれた.癒着や腫瘍などの因子によって実施困難な場合もあるが,本法は出血軽減策の選択肢の1つとして,他の方法や薬物使用を回避できる可能性があり有用と考えられた.

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◆要旨:腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)は骨盤臓器脱の標準治療の1つだが,当科では2017年からreduced port surgery手技によるLSC(RPS-LSC)を開始したので報告する.ポートは臍部縦切開25mm部位にGelPoint® miniを留置し,その左側に5mmポートを挿入して,さらにEndo CloseTMを用いた体外牽引で術野作製補助を行った.LSCでは体腔内深部における運針や結紮の腹腔鏡手技が高難度であるが,RPS-LSCは従来のLSC手技の難易度に準じ,かつ整容性に優れる点で女性良性疾患手術として有用と思われた.

文献抄録

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編集後記 文 敏景
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 今年の初夏は梅雨明けが遅く,昨年と同様に大雨による水害が頻発しました.皆様の周辺は大丈夫でしたでしょうか? 本号の編集後記を執筆させていただいている7月下旬には参議院選挙が行われ,芸能界では闇営業から端を発したパワーハラスメントの問題など,話題が盛りだくさんの時期でした.とりわけパワーハラスメントは,働き方改革と同様に我々医学界にも深く関連している問題です.我々の研修医時代(昔よりは良くなったかもしれませんが)は,指導医から怒られて成長する,給料よりも経験を得たい,少しでも同期よりも手術を経験したい,という気持ちで日常診療に臨んでいました.しかし,どうやら最近は違うようです.パワーハラスメントと指導をどこで線引きするのか,その境界の見極めが困難な場合も多いと思います.また,当事者間の問題のみならず,周りの人がそう感じてしまうとパワーハラスメントと認定されます.外科領域では技術を伝承していかなければならず,その過程でいかに効率よく(怒らずに)指導していくのか,各科で悩まれていることと察します.我々の時代の技術の習得は,目でみたことの記憶を頼りにして術前にイメージし手術に臨んでいました.しかし,内視鏡手術が全盛の現代では,手術のほとんどすべてが記録されており,手術の復習は容易になりました.一方,復習の深さは個人により差があると思います.うまく復習できる外科医は成長が早いと感じます.働き方改革においては,時間外労働と自己研鑽(学会や論文の執筆など)の線引き,仕事量の分担(看護師やコメディカルを含めた),労働時間短縮による給与の減少,など各病院や部署で取り組むべき問題も散見されます.きっと学会員の皆様も我々と同様に日々悩まれているでしょう.

 効率よく経験を得るために本学会誌などで知見を得ることは重要なことです.本号では,症例報告10編,手術手技2編の計12編が採用になっています.いずれの論文も腹腔鏡,胸腔鏡手術の利点を生かした症例や手技の工夫が記載されています.学会員の皆様の日常診療に役立つ内容になっていますので,是非ご一読ください.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
24巻5号 (2019年9月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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