日本内視鏡外科学会雑誌 23巻5号 (2018年9月)

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◆要旨:【目的】左側大腸(下行結腸〜直腸)穿孔による汎発性腹膜炎に対して腹腔鏡下Hartmann手術を施行し,腹腔鏡下手術を選択することの有用性を明らかにすることを目的として,後方視的に手術成績を検討した.【方法】2008年4月〜2017年5月の左側大腸穿孔による汎発性腹膜炎症例に対し,腹腔鏡下手術を完遂した46例を対象とした.【成績】手術時間中央値は207分(124〜356分).腹腔内膿瘍の合併は15.2%,再手術率は2%であった.術中合併症および術後創感染・創離開は1例も認めなかった.周術期死亡率は13%であり,術後在院日数の中央値は22日(11〜150日)であった,【結論】本法は死亡率や膿瘍合併率に影響を与えないが,創関連合併症の軽減に有効である.

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◆要旨:[目的]2012年より本邦では大腸ステント(SEMS)が保険適応となり,閉塞性大腸癌(OCC)に対する術前減圧法として普及しつつある.今回,左側OCCに対する腹腔鏡下大腸切除術(LAC)における,SEMSの有用性を経肛門イレウス管(TAIT)と比較した.[対象]過去4年間の当院の左側閉塞性大腸癌LAC症例20例中,SEMSを留置した10例とTAITを留置した10例の2群に分け,腸管減圧法と手術の短期成績を比較検討した.[結果]SEMS群では全例術前経口摂取が可能となった.また手術までの待機期間(SEMS群10.9日,TAIT群14.9日)および減圧効果(切除標本において測定した,腫瘍口側腸管横径/肛門側腸管横径の比率がSEMS群1.17,TAIT群1.40)において有意に良好な結果であった.[結語]左側OCCに対するLACにおいて,SEMS留置はTAIT挿入と比較し,早期に良好な減圧効果が得られ,手術短期成績および癌組織圧排による病理組織学的影響に有意差は認めなかった.

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◆要旨:患者は55歳,女性.上腹部痛の訴えがあり腹部CT検査を施行したところ,多血性の胃壁腫瘤を指摘され,また上部消化管内視鏡検査では前庭部大彎側に20mm大の粘膜下腫瘍を認めた.穿刺吸引法にて生検を行ったところglomus腫瘍あるいはGISTが疑われ,腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除術を施行した.全身麻酔下で内視鏡下に腫瘍辺縁を切開し,腹腔鏡下に漿膜筋層を切離した.腫瘍摘出後,自動縫合器により胃壁を縫合閉鎖した.切除標本の免疫染色にてSMA陽性,c-kit陰性,PDGFRα遺伝子変異陰性でありglomus腫瘍と診断した.合併症は認めず,術後9日目に退院となった.胃原発のglomus腫瘍は比較的稀な疾患であるが,リンパ節転移の報告もなく,本術式が有効かつ妥当と考えられた.

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◆要旨:患者は73歳,男性.胆管炎の診断で入院となり内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(以下,ENBD)チューブを留置した.入院3日目にX線撮影でチューブの逸脱が確認されたため抜去した.抜去後より腹痛を生じ,悪化傾向にあったため,翌日CTを撮影したところfree airを認めた.逸脱したチューブの先端による消化管穿孔と考え,緊急手術を行った.消化管内視鏡観察下に腹腔鏡下手術を行い,空腸の穿孔部を同定したうえで,小開腹による穿孔部縫合・大網被覆術を行った.術後は表層創感染を認めたのみで術10日後に退院となった.ENBD逸脱による腸管穿孔は非常に稀な合併症であるため報告する.

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◆要旨:胃異所性膵は無症状で経過し偶然発見されることが多い.通常は経過観察となるが,有症状や増大傾向,悪性疾患鑑別のために手術治療となることがある.膵炎症状を伴った胃異所性膵に対して,腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopic endoscopic cooperation surgery:LECS)を施行したので報告する.患者は46歳,女性.乳癌診断時に胃異所性膵と診断し画像にて経過観察を行ってきたが,繰り返し膵炎症状を呈したため手術治療を施行した.腫瘍は胃体部小彎側にあり,腫瘍辺縁を内視鏡で全周粘膜切開を行い貫通部位から腹腔鏡下操作で切除を進めた.術後の経口摂取は良好でLECS手技を行うことで胃切除量を最小限にすることが可能となり,機能温存をしつつ安全に手術を施行することができた.

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◆要旨:患者は19歳,女性.骨盤内膿瘍に対して抗菌薬投与で炎症が改善し退院したが,後日CTで膿瘍は残存し,虫垂腫大と糞石を指摘され,虫垂炎も疑われ当科を併診した.穿孔性虫垂炎,腹腔内膿瘍と診断し腹腔鏡下に手術を施行した.虫垂腫大は軽度であったが,虫垂先端が右卵巣に癒着し右卵巣腫大を認めた.卵巣被膜を切開すると排膿を認め,繰り返す虫垂炎が卵巣に穿通し,膿瘍形成したと考えられた.卵巣内部を洗浄ドレナージし,虫垂切除を施行した.合併症なく退院した.術後2年6か月現在,膿瘍再発はない.卵巣膿瘍の多くは上行性感染が原因で,虫垂炎が原因のことは稀である.今回,腹腔鏡下手術で治癒しえた1例を経験したので文献的考察を踏まえて報告する.

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◆要旨:患者は74歳,男性.僧帽弁閉鎖不全症,三尖弁閉鎖不全症,狭心症に対する僧帽弁形成術,三尖弁輪形成術,冠動脈バイパス術後に,形成した僧帽弁狭窄による溶血性貧血がコントロールできずに,再胸骨正中切開による僧帽弁置換術を施行した.深部胸骨感染を併発したため陰圧閉鎖療法を併用した創底管理後,腹腔鏡下に右胃大網動脈を栄養血管とする有茎大網弁を採取し,大網充塡術を施行し良好な創傷治癒を得た.致死的である深部胸骨感染に対する組織弁充塡は有用であるが重症感染症に対する追加手術は高侵襲である.特に開腹による通常の大網弁採取は感染が腹部へ波及する可能性があるため,腹腔鏡下に採取することはより低侵襲であると思われる.

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◆要旨:患者は76歳,男性.下腹部正中切開創部からの腹壁瘢痕ヘルニアに対し,腹腔鏡下手術を施行した.3か月後に救急外来を受診し,元のヘルニア囊部に熱感を伴う軟性の腹壁の膨隆を認め,CT上はメッシュ腹側に少量の気泡を伴う膿瘍形成を認めた.診察中に意識低下・ショックとなりメッシュ感染・敗血症の診断で緊急手術を施行した.ヘルニア再発や腸管の脱出・穿孔を疑う所見はなく,メッシュ除去は行わずに切開排膿ドレナージのみとした.敗血症に対する治療を行いつつ術後9日目から陰圧閉鎖療法を開始した.陰圧閉鎖療法のフィラーの交換を繰り返し行い,感染の再発なく経過し,術後30日目に退院となった.その後ヘルニアの再発も認めなかった.

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◆要旨:患者は70歳,男性.心窩部痛を契機に近医で施行した上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部癌を指摘され,当院を紹介され受診した.胸部X線・胸腹部造影CTでは左横隔膜の著明な挙上を認めた.食道胃接合部腺癌(cT1b, N1, M0, cStageⅠB)および左横隔膜弛緩症と診断し,腹腔鏡下噴門側胃切除,D1+(+11d)郭清,double-tract再建術を施行した.術後経過は良好で,第12病日に退院となった.横隔膜弛緩症を合併した食道胃接合部癌に対して腹腔鏡下噴門側胃切除を施行した過去の報告は検索しえなかった.腹腔鏡下の良好な視野は,通常よりも深い左横隔膜下の操作において有用であったため報告する.

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◆要旨:患者は40代,男性.他院にて左鼠径ヘルニアに対しKugel法を受け,4年11か月後から創部排膿を認めた.切開排膿を行ったが感染が再燃したため当科を紹介され,最終的に腹腔鏡下にメッシュを除去した.メッシュの内側背側は外腸骨動静脈に癒着して剝離困難なため可及的除去に留め,遺残メッシュおよび腹膜欠損部は大網で被覆した.1年半が経過したが,感染再燃およびヘルニア再発は認めていない.術後30日以降に発症する遅発性メッシュ感染は保存治療に抵抗性であり,早期のメッシュ除去が望ましい.腹膜前腔に存在するメッシュを除去するにあたり,腹腔鏡下手術は癒着状況の確認やその後の大網被覆も行え,きわめて有用な手技であると考えられた.

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◆要旨:妊娠中の急性虫垂炎では胎児への影響に配慮した診断方法ならびに術式を選択する必要がある.今回,筆者らはMRI検査によって確定診断を得た妊娠27週の虫垂炎に対し,安全に腹腔鏡下手術を施行することができた.患者は35歳,女性.MRI検査で急性虫垂炎と診断し,緊急で腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.子宮底は臍上3cmまで達していたが,ポート配置に留意することで子宮を圧迫することなく安全に手術を完遂しえた.胎児被曝や虫垂位置の移動を考慮するとMRI検査は安全かつ有用な診断方法と考えられた.また,腹腔鏡下手術は妊娠中期から後期においてその長所が最大限に生かされ,安定した妊娠の継続に寄与できる術式と考えられた.

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◆要旨:患者は78歳,男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.術直後に左腓腹部の疼痛を訴えた.左腓腹部の筋区画内圧は96mmHgと著明に上昇しており,コンパートメント症候群と診断した.緊急減張切開術を行い,後遺症なく退院した.手術体位による下肢圧迫が原因となり,健康な下肢に発症するコンパートメント症候群はwell leg compartment syndrome(WLCS)と言われ,早急な診断と治療が行われなければ,不可逆的な筋・神経障害をきたす.本症例の検討から,頭低位を伴う腹腔鏡下低位前方切除術において,弾性ストッキングと間欠的空気圧迫装置の併用がWLCS発症リスクを高める可能性があると考えられた.過去に同様の報告はなく,文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:患者は80代,女性.3年前に腎細胞癌に対して肋間斜切開下に左腎部分切除術を施行した.左側腹部の膨隆を主訴に当科を受診し,腹壁瘢痕ヘルニアと診断され,腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術を行った.右側臥位で腹腔内を観察すると,第10肋間に径4×8cmのヘルニア門を認めた.10×15cmのメッシュを展開し,肋骨と肋骨下縁の脈管を避けて全層固定・タッキングを行い,メッシュを固定した.3か月後,腹腔鏡下大腿ヘルニア修復術時の腹腔内観察でメッシュ逸脱や離開がないことが確認された.腰部肋間斜切開創に形成された腹壁瘢痕ヘルニアに対して手技を工夫することにより腹腔鏡下で安全確実な修復が可能であった.

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◆要旨:左側下大静脈は下大静脈の発生過程で生じる血管変異で,腹部大動脈の左側を上行し腎門部レベルで大動脈の腹側を横断する.左側下大静脈はS状結腸間膜の背側を走行するため,S状結腸切除において損傷しないように注意を要する.患者は63歳,女性.腹痛を契機にS状結腸癌と診断された.術前のCT検査で左側下大静脈を認めた.下腹神経前筋膜に沿った剝離層を遵守することで定型通り腹腔鏡下S状結腸切除術を施行しえた.本症例のような脈管変異を伴う症例であっても,術前画像検査で把握し,解剖学的指標にもとづいた剝離層を守ることにより安全に腹腔鏡下手術を行うことが可能と考えられた.

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◆要旨:患者は60歳,男性.左下腹部違和感を主訴に当院を受診した.腹部CTにて腹直筋左外縁に,筋膜欠損部および皮下に脱出する肥厚した腹膜を認め,左Spigelianヘルニアと診断し,腹腔鏡下ヘルニア根治術を施行した.術中に左外鼠径ヘルニアの合併を認めた.鼠径ヘルニアは腹腔内到達法(transabdominal preperitoneal approach : TAPP法)による修復を施行し,Spigelianヘルニアは別のメッシュを用いて鼠径ヘルニアとは別に修復した.術後経過は良好で,明らかな再発は認めていない.Spigelianヘルニアに対しての腹腔鏡下手術は詳細な検索により,他部位のヘルニア合併の診断や治療を同時に行うことが可能であり,有用であると考えられた.

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◆要旨:チェリーダイセクターの先端は,綿を球形に形成したもので,血液で先端の綿が湿ってしまうと,肺を適切に保持することができない.先端を正多角形にすることで摩擦が増えることを着想し,摩擦係数の高い高分子ポリエチレンの多孔質樹脂を採用した.正六角形の形状で摩擦係数を調整した多孔質樹脂の先端は,肺を保持するうえで十分なグリップ力で,ロータリーダイセクターとして医療機器に承認を得た.その後,産学連携(経済産業省課題解決事業)を通して,5mm径のサイズも開発した.先端の多孔質樹脂の形状や量の変更により,多彩な外科医のニーズに応えることが可能である.産学連携での医療機器開発には,知的財産権の取得は必須であった.

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日本内視鏡外科学会への入会について

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編集後記 須田 康一
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 本誌編集委員会は2か月に1回開催されます.その1か月程前になると各編集委員に6〜8編の新来論文が送られてきます.最近その中に,ロボット支援手術に関する論文が散見されるようになり,とても嬉しく感じています.

 内視鏡外科手術は,テクノロジーの進化とともに発展してきました.昨今,次世代のテクノロジーとしてロボットと人工知能(AI)が注目されています.昨年,先進医療B:「内視鏡下手術用ロボットを用いた腹腔鏡下胃切除術」にて,ロボットの使用により腹腔鏡下胃切除術後合併症発生頻度が有意に軽減されることが示され,本年4月より,胃癌,食道癌,直腸癌,肺癌,子宮体癌,膀胱癌,縦隔腫瘍に対するロボット支援手術を含む12のロボット術式が新たに保険収載されました.2012年にロボット支援前立腺全摘術が保険収載されて以来,本邦は,世界第2の内視鏡手術支援ロボット保有国でありながら,ロボット1台あたりの手術施行件数は世界最下位という,“宝の持ち腐れ”状態に陥っていました.今回の診療報酬改定には,ようやくその“資源”を活用して内視鏡外科手術を次なるステージに飛躍させる大きな契機となる可能性が期待されます.普及期の安全性を担保するためのレジストリー制やプロクター制度等新しい試みも始まります.保険診療の要件やコストの問題等,越えなくてはならないハードルは複数存在しますが,ロボットの能力を引き出す手技やセットアップの工夫,ロボットの臨床的有用性,ロボット外科医を養成するためのトレーニング,次世代のロボットの開発等々について,本誌上で活発な議論が展開されるのを心待ちにしております.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
23巻5号 (2018年9月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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