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1 はじめに
友だちから,赤ちゃんが生まれたという知らせを聞いたとする。そのとき「おめでとう!」という言葉のあとに私たちの口をついて出るのは,「男の子? 女の子?」という問いかけではないだろうか。それは単純に,まずは出産祝いに送るベビー服の色を決めたいからかもしれない。少し前の時代なら,それはピンクかブルーかの二択だったし,最近ではそれに黄色やベージュといった選択肢が加わりはしたが,その場合でもそこには「『ピンクかブルーか』の二択から距離を取る」という選択が,やはり働いている。
私たちは,友だちの赤ちゃんが「男/女」どちらなのか分からないと「困る」世界に生きている。赤ちゃんが「男/女」という振り付けの,どちらのパートをることになる人なのかが分からないと,私たちは次に自分がどういうアクションをとっていいのかすら分からないのだ。 私たちの社会には多かれ少なかれ,男女のどちらかに人間を割り振り,それぞれに対して言外に,異なる役割を期待する空気がある。それはちょうど広いダンスホールに集まった本来雑多な人びとが,「男/女」で振り付けの違うダンスのステップを踏みながら,絶え間なく踊り続けているようなものだ。
人びとで満ちたダンスホールのなかで自分だけが,割り振られたステップとは異なるステップを踏もうとすると,たちまち相手の足を踏んづけてしまったり,周りで踊っている別のペアとぶつかったり,周囲から奇異の目で見られてしまう。私たちは少なくとも現在のこの社会で生きていこうとするときに,嫌でもこのダンスとの付き合い方をどうするのか,自分なりに選ばざるを得ない状況にある。
ステップを踏むさまざまな人びとで満ちたダンスホールを想像してほしい。その入口にたたずんでいる人がいる。ほかでもない「その人」は,どんな仕方でダンスに加わろうとしているのだろうか。自分に割り振られたステップで踊ることを楽しみ,喜んで加わろうとしているのだろうか。あるいはどこか苦痛を感じながらなのだろうか。ひょっとすると,なるべく加わらなくてよい方法を探しているのかもしれない。部分的にだけ加わろうと考えているかもしれない。あるいはただ伝統的なステップを踏襲することに飽き足らず,複数のステップを組み合わせて,自分なりのステップを作ろうとしているのかもしれない。踊る人びとのなかにあってどう身を処すのか,そのふるまいは人それぞれに違っている。

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