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I 相談以前の苦しさはどこへ流れ込むのか
相談しろ。頼れ。つながれ。居場所を見つけろ。そうした言葉に,私はもううんざりしている。それに足る相手や場所があるなら,若者はとっくにそうしているのだ。できないのは,彼ら・彼女らの援助希求能力が低いからではない。支援する側が,頼るに足る存在になれていないからである。
そもそも「相談しろ」という呼びかけには,本人がすでに,相談できるだけの言葉を持っている,という前提がある。何に困っているのかを自分で説明できること,どこへ行けばよいかを思いつけること,そこへ行っても自分のペースや秘密がある程度守られると見込めること。これら一連の条件が揃って,はじめて人は相談できる。だが,若者の困りごとは,たいていそんなに整理されたかたちでは現れない。苦しい。しんどい。消えたい。帰りたくない。もうやだ。あるのはそういった,明確に名づけすることがむずかしい苦痛なのである。そこへ「相談しろ」と言っても,多くの場合,それは解決策ではなく,できないことの確認にしかならないのだ。
そうした「相談以前」の苦しさが,まず流れ込む先が友人関係であることは少なくない。行き場がないから,若者はネットに向かう。夜の街に向かう。危ないとわかっていても,そこでなら話ができるからだ。そこでなら,愚痴でも,金でも,性でも,家のことでも,死にたさでも,とにかく何かを持ち込めるからだ。
もっとも近年は,そこに生成AIも加わりつつある。少なくとも海外では,AIチャットボットを感情的支えや助言のために使う10代が一定数存在しており,AI companionsを使う若者も少なくないと報告されている注1)。友だちの前に,あるいは友だちと並んで,ChatGPTのような対話AIに最初の苦しさを持ち込む若者がいても,もはや不思議ではないだろう。秘密を守ってくれそうで,気まずくならず,相談と名づけなくても,24時間いつでも話しかけられる。そのうえ,AIには感情がない。現実の人間関係と違って,なにも気を遣う必要がないのだ。よっぽど気楽で,相談しやすい。 もちろん,AIをメンタルヘルス支援先として使うことには,安全上の懸念も大きい。だからこそ,いま問われるべきなのは,「若者がなぜそこへ向かうのか」,ということである。
若者がまず友だちに話すことは,何も不思議でない。ふつう,いきなり制度利用にはいかないだろう。まずは,話が通じそうな相手,すぐ返事がくる相手,説明しなくても文脈をわかってくれそうな相手に向かう。若者にとって,その最初の相手が友だちであるのはむしろ自然であるし,そうしようと思える友だちがいるのは,喜ばしいことだ。問題は,友だちが第一選択であることではない。その次に来るはずの心理職やカウンセラーが,「話してみよう」と思える位置に,ほとんど立てていないことのほうである。
にもかかわらず,若者が友だちを第一選択にしていることを,「援助希求が苦手だから」と説明して済ませるのは,あまりに支援者側に都合がよすぎる。相談しない若者がいるのではない。友だち以上に頼りたいとは思えない支援があるだけだ。それを若者の能力の不足として片づけるのは,支援の不成立の理由を,若者の側へ押し返すことにしかならない。
私がここで考えていきたいのは,相談を受けた友だちをどう「うまく助けるか」という技法ではない。問うべきなのは,なぜその困りごとが,まず友だちのところに流れ込むのか,ということだ。その問いを,私を含むすべての大人たちで謙虚に考え,支援のありかたそのものを再考していきたい。

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