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はじめに
WHOによるWorld Report on Hearing, 2021において,世界では約15億人が何らかの程度の難聴に苦しんでおり,60歳以上では25%が医学的介入を要する中等度以上の難聴を有していると試算されている1)。
高齢難聴者は加齢に伴う難聴がその多くを占め,近年では認知症やうつ,社会的孤立に関連しているといわれている2,3)。2024年のLivingstonら2)によるLancet Commissionによる報告では,認知症発症との関連が最も強いのは難聴と高LDLコレステロール値であり,これらの因子を予防することでそれぞれ認知症の発症を7%ずつ予防できるものと推定された。これは肥満,高血圧,糖尿病,喫煙を合わせた影響と同程度であり,うつや引きこもりの影響よりも大きく,認知症と難聴の深い関連がわかる。認知症と難聴の関連に関する報告以降,補聴器装用による聴力以外への効果が検討され,社会的孤立やうつ,認知症に一定の効果があるとの報告が散見されるようになった4〜7)。一方で,不自由を自覚してから無治療のままでいる期間(Years lived with disability:YLDS)は多くの障害のなかで難聴は3番目に長いと報告されており,治療に至るまでに時間を要していることが明らかになっている8)。Davisら9)の報告では,補聴器などの効果が期待できる成人難聴者で補聴器等の介入を希望するのは20%にすぎず,診断されてから補聴器導入に10年以上の経過を要したとしている。70歳以上の高齢難聴者は,特にその傾向が顕著であり,補聴器などの介入なく様子をみられてしまう現状があるともされている8)。
今回われわれは高度難聴の無治療放置にて孤独,抑うつ症状を呈し,その精神症状に対する薬物治療にて薬剤性パーキンソニズムを発症し,日常生活動作(ADL)の著明低下につながったが,薬剤調整と補聴器導入にて抑うつ症状,ADLの改善を認めた症例を経験したため報告する。
78-year-old female, who has suffered from hearing loss for years and had the history of unsuccessful use of hearing aids(HA) several years ago, visited our department complaining of auditory hallucination, reduced activities of daily life(ADL) and communication limitation caused by hearing impairment. We referred her to a psychiatrist, which led to the diagnosis of depression and drug-induced parkinsonism. Thus, a proper treatment was provided and improved her ADL. Her stable mental condition enabled us to successfully induce HA for bilateral severe sensorineural hearing loss. In this case, a multidisciplinary approach was essential for the successful induction of HA.

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