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はじめに
「先生,殴っていいですか」
北海道の少年院で教育現場の責任者を務めていた頃,面接中に一人の在院者から突然こう詰め寄られたことがある。当時,その在院者は衝動的な言動が目立ち,集団生活にもなかなか適応できずにいた。注意や説諭を重ねても行動は収まらず,規律を守らせようとする働きかけに対しても,表面的な応答すら十分に引き出すことができなかった。面接の場は,対話というよりも緊張と対立を孕んだ空間となり,職員と少年との関係は,時間が経つほどに硬直していった。
「自分に面接させてくれませんか」
そのとき,単独寮の主任であった30代前半の職員が,自らその在院者との面接を申し出た。二人の対話は約一時間にわたった。終了後,職員は「面接の最中に一時的に興奮する場面もあったが,総じて落ち着いて話をしていた」と私に話した。それまで衝動的な言動が目立っていた在院者からは想像できないほど落ち着いた様子であったという。
翌日,当直職員から報告が上がってきた。「昨日の面接以降,在院者の様子が明らかに違う。職員に対する態度が変わり,言葉遣いも柔らかくなっている」と。実際,その日を境に,それまで繰り返していた暴力的な言動は見られなくなり,集団生活にも安定して参加できるようになったのである。私は報告を聞いて驚き,面接を行った職員に尋ねた。「面接で何を話したんだ?」彼は少し照れたようにして,こう答えた。「動機づけ面接を独学で学んでいるところです」
この出来事が,私の中にあった「指導する側」としての姿勢を揺さぶった。動機づけ面接(Motivational Interviewing:以下,MI)との出会いは,矯正における関わり方そのものを根本から問い直す契機となった。
少年院における個別面接は,矯正教育の中心的な実践である。しかし,施設の安全と秩序を守る責任を負いながら,同時に在院者の立ち直りを支援するという「二重役割(ダブルロール)」を担う私たちにとって,その面接は常に緊張をはらんだ場である。
規律・秩序を維持しなければならない立場にありながら,目の前の在院者とどう向き合うのか。表面的な反省や一時的な従順さではなく,彼らの内側にすでに存在している「変わろう」とする力,すなわち内発的動機をいかに高め,本人の言葉として引き出していくのか。私の矯正実務の中で繰り返し突きつけられてきた問いである。
以下,本稿では,筆者の実務経験を基盤としながら,矯正の現場における動機づけ面接の可能性について一つの考察を試みる。なお,本稿の見解は,筆者の実践経験に基づく私見であることをあらかじめお断りしておく。
本稿では,少年院の在院者および刑事施設の被収容者・受刑者を含め,矯正施設における処遇対象者を総称して「在院者等」と表記する。

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