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I はじめに
「働く人」のメンタルヘルスの重要性が認識されるようになって久しい。特に近年,2015年12月に労働安全衛生法にて50人以上の労働者を抱える事業場においては年に1回ストレスチェックを実施することが義務付けられ,「働く人」のストレスが広く認識されることとなった。さらに,2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症の流行は,「働く人」のメンタルヘルスに大きな影響を与えた。雇用の危機にさらされる人,在宅勤務などの働き方の変更を余儀なくされる人,コミュニケーションやマネジメントの困難に直面する職場など,コロナ禍は「働く人」と「働く場」にさまざまな変化を要求し,その急激な変化に対応する際に,「働く人」に大きなストレスを与えた。
「働く人」すべてにとってストレスが身近なものとなり,「働く人」のメンタルヘルスへの支援の重要性が再認識されている。「働く人」のメンタルヘルスへの支援は,事業場内資源と事業場外資源によって提供される。事業場内資源とは,組織内で雇用されている産業医,保健師,衛生管理者,心理職などの産業保健スタッフ等であり,事業場外資源とは,医療機関や外部EAP機関を指す。心理職の場合,企業に雇用された一社員ないし事業場内資源の一員としてメンタルヘルス支援を行う場合と,外部EAP機関に所属してメンタルヘルス支援を行う場合がある。EAPとはEmployee Assistance Programの略であり,従業員支援プログラムとも呼ばれる。もともとは米国にてアルコール問題による生産性低下への支援策としてスタートした。EAPでは,専門家によって次の2つのサービスが提供される(一般社団法人国際EAP協会,2013)。
①職場の生産性,健全な運営の維持及び向上,またその組織ニーズの提言をする。/②人間の行動とメンタル上の健康に関する専門家のノウハウを通じてサービスを行う。
日本における外部EAP機関は,「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」(厚生労働省,2000)のなかで推奨された4つのケア―「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」―のうち,「事業場外によるケア」に位置付けられる。2000年に過労による自殺は企業の安全配慮義務違反と最高裁が認定したことで,リスク対応としてのメンタルヘルス対策が注目され,多くの企業でEAPが導入されるに至った。
筆者は,まさにその時期に臨床心理士として医療機関併設型の外部EAP機関に所属し,その後22年勤務した上で,独立して開業をした。本稿においては,可能な限り筆者の実体験を紹介しつつ,産業領域における開業のエッセンスを論じていきたい。

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