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I 加害者への再犯防止指導
法務省は,平成18(2006)年より,性犯罪加害者に対し,刑事施設内で性犯罪再犯防止指導(以下,「指導」という)を実施している。「性犯罪を再び犯すおそれを低減させること」が指導の目的である(法務省,2020)。法務省矯正研修所効果検証センター(2020)が,再犯の定義を,「出所後から3年以内に検察庁による起訴の処理が成された事件」として分析したところ,対象者1,768名のうち,指導の「受講群」の方が「比較対照群」よりも,出所後3年以内の再犯に至りにくいという結果となり,指導の効果が確認された。一方で,強制わいせつ事犯者,迷惑行為防止条例違反事犯者,被害者が13歳未満の者には統計的な裏付けが得られなかった。
令和2(2020)年10月の法制審議会における諮問第105に対する答申において,再犯防止対策の観点から刑を「自由刑」として単一化し,「受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を可能とすることを目的とする」ことが掲げられた。令和4(2022)年3月には,「刑法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,6月に成立した。法案のなかには,新たな自由刑として「拘禁刑」が盛り込まれた(法務省矯正局,2022)。このことにより,指導自体は,再犯防止を目指す従来の方針と大きく異なることはないものの,これまで懲役・禁固刑を前提とした施設内生活の選択肢のひとつとして実施されてきたところ,受刑者の再犯のない社会生活との連動を見据え,指導を含めた施設内処遇の全般を整備していくことになった。この流れは,司法の目的を,刑罰ではなく対象者が犯罪に至った本質的な問題の解決であるとし,そのために必要とされる支援を提供すること,ひいては再犯防止や社会全体の幸福追求に資するとみなす「治療的司法」(指宿,2018)の考え方にも沿うものだろう。

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